「機能環」以外に、「媒体環」、「生殖環」、さまざまな環が集合してその生物固有の「環世界」が形成されます。
生物が見る世界はそのような、身体に根差した生態が身体を通じて環境と自己を結び合せようとする「感覚作用」と「運動作用」の複雑な組み合わせからなります。生物が主体的に形成する世界、それが「環世界」です。ある生物は特定の色に反応しやすく、たとえばネコは細かく動く小さなものに反応します。
その一方で「環世界」はその生物をその世界に閉じ込めている、とも言えます。その外に違った世界があるとさえ想像しえない、主観的世界なのです。人間の知能も、固有の「環世界」にトラップされている。「これが世界のすべて」と思い込むことで、人間の「環世界」も成立しており、主観的世界を介して生物ははじめて行動し得るとも言えます。
■参考文献
『動物の環境と内的世界』 ヤーコプ・フォン・ユクスキュル 原著一九〇九年
『生命の劇場』 ヤーコプ・フォン・ユクスキュル 原著一九五〇年
『生物から見た世界』 ヤーコプ・フォン・ユクスキュル 原著一九三四年
人工知能のための哲学塾 第二夜「ユクスキュルと環世界」 講演資料 三宅 陽一郎 二〇一五年
★この記事はiCardbook、『<人工知能>と<人工知性>: —— 環境、身体、知能の関係から解き明かすAI—— 』を構成している「知識カード」の一枚です。