著者・佐々木拓哉からのメッセージ
「脳機能を説明するために、一番端的でわかりやすい方法は、最も重要とされる脳領域を列挙することです。しかし、それだけで脳の情報処理が理解できるほど単純でないことは、誰もが気付いていることと思います。脳機能の本質を説明するためには、神経回路に着目することは必須ですが、残念ながら、そのような考え方が浸透しているとは言い難い状況です。そこで本書では、巷に溢れている脳領域ベースでの説明は敢えて省き、普遍的な神経回路の性質を基に、柔軟かつ多様な脳機能を説明することを試みました。」
推薦 池谷裕二
「本書は、脳の原理を「神経回路」の視点から解説したものです。
脳の中は、たくさんの神経細胞(ニューロン)が集まって、回路を作っています。その回路を通じて、脳の機能が発揮されています。しかし、これまでの脳の解説本は、神経細胞やそこにふくまれる分子や遺伝子の記述がほとんどで、肝心な神経回路に主眼を置いた書籍はほとんどありませんでした。
そこを補強すべく、執筆されたのが本書です。「神経回路学」はとても奥深く、本書の内容だけで脳機能の全貌を理解することはできませんが、脳が作動する原理を、最低限理解するために必要な知識が、丁寧に解説されています。本書を通読した後に、ほかの脳に関する書籍を読み直すと、脳に対する新しい捉え方ができるようになるはずです。
本書「iCardbook」は、電子書籍に特化した執筆形式で作られています。一つひとつの要点が短文で構成され、必要に応じて図や動画、参考文献にアクセスできる仕組みです。iCardbookには、電子端末ならではの利便性だけでなく、紙媒体ではなかなか伝えられない直感的な概念を伝えることができる利点があります。本書の内容が、脳の神経回路に目を向ける契機の一つとなり、また自らの脳機能をより詳しく考察するための一助となれば幸いです。」
佐々木 拓哉(ささき たくや)
脳研究者。 東京大学薬学部・大学院薬学系研究科 助教
記憶や行動設計などの脳機能を研究。
日本薬理学会学術奨励賞、日本神経科学学会奨励賞、東京大学総長賞などを受賞。
監修者:池谷 裕二
脳研究者。東京大学薬学部・大学院薬学系研究科 教授。
神経科学および薬理学を専門とし、海馬や大脳皮質の可塑性を研究。
『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』(ともに講談社)、『脳はなにかと言い訳する』(新潮社)など、著書多数。
ISBN:978-4-907445-11-9
◎池谷裕二教授がコメントしている「iCardbook」とは、スマホ最適化された、カード型専門書ebookのレーベル名。カードで<本>が編成されている。第七章を例にとると下記のような具合です。
21世紀、様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され、さらにモノ同士がデータ・情報をやりとりすることで、これまでにないサービスを実現する、モノのインターネット、IoT(Internet of Things)時代の鳥羽口に私たちはいます。モノが呼び交い、データ・情報を流通させる時代に、どうして本だけが閉じた系として存在し続けられるでしょうか。本と本とが呼び交い、交歓する世界(books as a service)の構築が急がれています。ただし モノのネットワーク化と本のネットワーク化とでは根本的な違いがあります。 モノ同士のデータ・情報のやりとりは、実際は記号の流通でしかありません。記号の流通で モノのネットワーク化は具体化できますが、 本のネットワーク化では「読む」という行為が必要です。
「読む」ことではじめて、記号は情報となり、そこへ行動・経験が加わり知識となり、集団にとっての知恵へと昇華していきます。そしてその「読む」の前提には、「このことはどの本に書いてあるだろう」という探索ニーズに対するソリューションが必要です。すでに英語圏(英語などの欧文書)ではこれを実現するための活動が始まっています(たとえば、GoogleBooks、あるいはPortable Web Publications for the Open Web Platform)。
「アイカードブック(icardbook)」は日本語圏(日本語による書籍)のための本のIoT実現へ向けた、ささやかな試みのひとつです。日本語圏の「知のエコシステム」を再起動させるための新しい本のカタチです。いわゆる「成書」は「閉じた系」を特徴とし論証性を軸に、一定の時間の経過を使いながら、最終ページまでに著者が読者の「説得」を試みる作品群と言えます。読者は読み進むうちに自分の頭の中が秩序立てられ、整理されていく快感を味わうでしょう。これに対し「アイカードブック(icardbook)」は、読者の関心、興味へ開かれた「オープン」の仕掛けを内蔵したひとつのサービス(books as a service)です。スマホなどモバイル端末での情報収集が当たり前になりつつある世界に投じられた、ロゴスとパトスの融合物としての書き物。読者は、自分の探し物の周辺に意外な「知の世界」があることを知る。本と読者との出会い、セレンディピティを演出する、新しい本のカタチです。
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