人工知能と商業デザイン

クリエイティブ領域における「読書階層構造」構築の取り組み

境 祐司

ITの世界は日進月歩である。次から次へと新しい技術が登場し、デジタル製品やサービスに取り込まれていく。この業界で働く人たちは、仕事をしながら学習し続けなくてはいけないが、そう簡単なことではない。自己学習能力が身についている人は少数だ。eラーニングにおける完遂率の低さは、自己学習の難易度の高さを表している。

 

私は「読書階層構造」を持つデジタル教科書によって教育コストを飛躍的に下げることが可能だと考えている。ディスプレイをタップすると、ぞろぞろと、その下に複数の本が出てくる。「この本には技術に関する解説がありませんが、こちらの本の第2章で補完することができます」といったポップアップを表示する。関連度・重要度に沿って、第2階層、第3階層と下方向に伸びていくイメージだ。このシステムは、図書館員や書店員の暗黙知を形式知化した仕組みであり、AI(人工知能)テクノロジーによって、実現できると考えている。

境 祐司(さかい ゆうじ)

 

インストラクショナルデザイナーとして講座企画、IDマネジメント、書籍の執筆、講演などを中心に活動。発行した書籍は海外翻訳版を含めて50冊ほど。2012年より電子書籍のプランニング、情報設計、デリバリデザイン等を手掛ける。2014年よりデジタル専門の一人出版社「Creative Edge School Books」を立ち上げ、コンテンツの企画から制作、ストアの運用、販売、プロモーションまで一人でこなす。

 

現在、AI(人工知能)を出版活動の支援ツールにするため、複数のプロジェクトの実証実験に参加しながら「機械翻訳」と「クリエイティブAI」の2つの専門領域に絞ってトライアル中。

インテリジェント・カード・ブック(intelligent card book)

略称「アイカードブック(icardbook)」

21世紀、様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され、さらにモノ同士がデータ・情報をやりとりすることで、これまでにないサービスを実現する、モノのインターネット、IoT(Internet of Things)時代の鳥羽口に私たちはいます。モノが呼び交い、データ・情報を流通させる時代に、どうして本だけが閉じた系として存在し続けられるでしょうか。本と本とが呼び交い、交歓する世界(books as a service)の構築が急がれています。ただし モノのネットワーク化と本のネットワーク化とでは根本的な違いがあります。 モノ同士のデータ・情報のやりとりは、実際は記号の流通でしかありません。記号の流通で モノのネットワーク化は具体化できますが、 本のネットワーク化では「読む」という行為が必要です。

 

「読む」ことではじめて、記号は情報となり、そこへ行動・経験が加わり知識となり、集団にとっての知恵へと昇華していきます。そしてその「読む」の前提には、「このことはどの本に書いてあるだろう」という探索ニーズに対するソリューションが必要です。すでに英語圏(英語などの欧文書)ではこれを実現するための活動が始まっています(たとえば、GoogleBooks、あるいはPortable Web Publications for the Open Web Platform)。

 

「アイカードブック(icardbook)」は日本語圏(日本語による書籍)のための本のIoT実現へ向けた、ささやかな試みのひとつです。日本語圏の「知のエコシステム」を再起動させるための新しい本のカタチです。いわゆる「成書」は「閉じた系」を特徴とし論証性を軸に、一定の時間の経過を使いながら、最終ページまでに著者が読者の「説得」を試みる作品群と言えます。読者は読み進むうちに自分の頭の中が秩序立てられ、整理されていく快感を味わうでしょう。これに対し「アイカードブック(icardbook)」は、読者の関心、興味へ開かれた「オープン」の仕掛けを内蔵したひとつのサービス(books as a service)です。スマホなどモバイル端末での情報収集が当たり前になりつつある世界に投じられた、ロゴスとパトスの融合物としての書き物。読者は、自分の探し物の周辺に意外な「知の世界」があることを知る。本と読者との出会い、セレンディピティを演出する、新しい本のカタチです。

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