iCardbookスタイルでの出版 

自著解題:『イスラーム世界の社会秩序』(一橋大学名誉教授 加藤博)(2)

1.関係性と社会秩序
2.iCardbookスタイルでの出版
3.著作『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』
4.もうひとつの市場経済の道
5.イスラーム経済における市場と公正
6.関係性のなかのイスラーム経済

(本稿は加藤博氏が自著の「解題」を信州イスラーム世界勉強会HP へ寄稿したもの。執筆者の加藤博氏と勉強会主催者の板垣雄三氏のご了解のもと転載しています。)

 


iCardbookスタイルでの出版

さて、昨年出版した拙著とは、加藤博『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』 3 Vols, (iCardbook) Kindle版, 詩想舎, 2020 です。ここで、この著作を取り上げるのは、内容はもちろんですが、iCardbookという出版スタイルを知ってもらいたいためです。iCardbookのスタイルとは、「200文字程度の本文と参考文献を記述した」知識カード(下記の写真を見てください)を100枚程度束ね、編集した、新しい書き物スタイルです。

icard 表示例

この著作の出版の企画は、詩想舎を主宰する神宮司信也氏から持ち込まれたものでした。2年近く前でしたか、氏から、ある講演会での私のイスラーム経済に関する話をもとに、本をiCardbookスタイルで出版しないか、との提案があったのです。当時、私は、イスラーム社会についてこれまで書き散らし、喋り散らしてきたものを整理しなければと思っていたため、この提案に乗りました。提案に乗った最大の理由は、iCardbookという出版スタイルの新奇さでした。

私は自他ともに認めるアナログ派の、IT音痴です。しかし、社会のすべての領域におけるデジタル化は、抵抗しても詮無い時代の流れであるとあきらめています。若者がウェブで情報を検索する速さを目の当たりにするたびに、自分がガラパゴス諸島の住民だと思い知らされます。しかし、ガラパゴス諸島住民にも、意地がないわけではありません。

聞くところによると、今日の大学生の多くが、パソコンを使わず、情報の収集をスマホに頼っているらしい。学術書が売れないのも、もっともだと思います。そこで、細切れの知識しか身に付けようとしない今日の風潮と、思想を伝えようとする学術書の購読との橋渡しを目的に企画したiCardbookという出版スタイルに、新しさを感じました。すでに教職から離れた私には、その機会は失われましたが、授業での教科書を想定して、本を書こうと思いました。

とは言え、正直なところ、私はこの企画を、こうしたたいそうな思いからではなく、出版スタイルとして面白いとの軽い気持ちで引き受けました。というのは、企画を聞いたとき、iCardbookとは、私が学生のときに読んでなるほどと感心した、文化人類学者の川喜田二郎氏が考案した発想法であるKJ法(『発想法』1967年)のIT版だと思ったからです。

KJ法とは、収集した情報をカード化し、関連する内容のカードをグループ分けすることによって、アイデアや解決の糸口を探る発想法です。それはカードを使ってはいないものの、我々が研究生活のみならず、日常生活でも無意識に行っていることであり、身近な知的操作です。そこで、iCardbookの企画を聞いたとき、この企画は、身近で日常的なKJ法の知的操作のプロセスを、IT技術を使って可視化することを目的としたものだと思ったのです。


■関連URL

・専門書の未来 | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/9014
・iCardbook | iCardbook|知の旅人に https://society-zero.com/icard/icardbook

電子書籍

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1.関係性と社会秩序
2.iCardbookスタイルでの出版
3.著作『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』
4.もうひとつの市場経済の道
5.イスラーム経済における市場と公正
6.関係性のなかのイスラーム経済