関係性と社会秩序 パンデミック後への補助線

自著解題:『イスラーム世界の社会秩序』(一橋大学名誉教授 加藤博)(1)

1.関係性と社会秩序
2.iCardbookスタイルでの出版
3.著作『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』
4.もうひとつの市場経済の道
5.イスラーム経済における市場と公正
6.関係性のなかのイスラーム経済

 

◎他者との関係性をいかに構築するか。それは人間が人間であるための大前提となる条件設定だ。この事実の原理性を、新型コロナのパンデミックが改めて提示している。

ここにイスラームという、思考の補助線を引いてみよう。

社会、経済、文明。それぞれの地平においてイスラームがどのような「モデル」を人類史に刻印したかを解き明かす『イスラーム世界の社会秩序』。パンデミック後の世界を考察するうえでも、それはヒントを与えてくれる。

 

(本稿は加藤博氏が自著の「解題」を信州イスラーム世界勉強会HP へ寄稿したもの。執筆者の加藤博氏と勉強会主催者の板垣雄三氏のご了解のもと転載しています。)


関係性と社会秩序

現在、私は次のようなことをつらつらと考えています。

コロナのパンデミックは、改めて現代社会が予期せぬ異変や事件と隣り合わせであることを白日のもとにさらしました。そして、それは、社会の持続可能性にとって必要な国家、コミュニティ、個人の関係のあり方を考えさせる機会ともなりました。ここでコミュニティとは、国家のなかの地域社会のほか、宗教やネット社会のような国家を超えた共同体を意味することとします。

コロナのパンデミックのなかであきらかになったのは、非常時での社会管理における国家の役割の限界であり、コミュニティの合意形成と個人の自発的行為、とりわけ個人の自発的行為の重要性でした。世界は今後、ますます不確実性に満ちたものになって行くでしょう。コロナ後の時代、不確実性に対処し、持続可能な社会を維持するためには、個人、コミュニティ、国家のすべてが変わらなければなりません。

しかし、個人、コミュニティ、国家のそれぞれが独立して、日常的な惰性を打ち破ろうとしても、それは難しいでしょう。また、それを試みたとしても、不十分なものに留まるにちがいありません。個人、コミュニティ、国家のすべてが変わるためには、この三者が同時に変わらなければならないでしょうが、それは、個人、コミュニティ、国家の三者が新しい関係を持つことによって始めて可能になるのではないでしょうか。

ここでのキーワード、それは関係性です。個人であれ組織・社会であれ、そのあり方は「他者」、つまり他の人や組織・社会との関係によって成り立っています。そのため、従来の人間・組織・社会での関係を変えることは、関係づけられている個人、組織、社会それぞれを変えることになるでしょう。こうした関係の束があって社会の秩序は保たれるのだと思います。

この社会における関係性の問題は、これまでの私のすべてのイスラーム社会研究を貫く基調をなしていました。イスラーム社会では、どのような関係の束を基本に秩序が維持されてきたのか、そして、それはほかの文化や文明の社会と比べて、どのような特徴を持っていたのだろうか、と言うわけです。そこで、以下、私がこの問題をどのように考えてきたかを、昨年出版した拙著の内容に引き付けて、述べてみようと思います。

なお、ここでいうイスラーム社会とは、19世紀以前のイスラーム世界での社会を、イスラーム経済とは、そのイスラーム社会で展開した経済を意味することとします。もちろん、19世紀以降の近現代についても、イスラーム社会やイスラーム経済を論じることはできるでしょう。しかし、私の考えでは、イスラームが体制であった時代と「民族」を単位とした国民国家の時代では、人びとの生活環境が全く異なっており、近代を境に、その前後で時代を分けて、議論をすべきだと思っています。


 

■関連URL

・[はじめに]『人類の社会性の進化』 | iCardbook|知の旅人に https://society-zero.com/icard/3353
・今西による「文化」概念の拡張 | iCardbook|知の旅人に https://society-zero.com/icard/438940
・人類祖先の社会構造は? | iCardbook|知の旅人に https://society-zero.com/icard/807385

 

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1.関係性と社会秩序
2.iCardbookスタイルでの出版
3.著作『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』
4.もうひとつの市場経済の道
5.イスラーム経済における市場と公正
6.関係性のなかのイスラーム経済