近代を相対化するイスラームの知恵とは|参考文献リスト


◎これは『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」(加藤博)』の参考文献(書籍)を、章説明文の紹介とともに章別にリスト化したものです。

『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』は全三巻で構成されていて、その第二巻目です。
 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)
 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)
 Vol.3 基本概念・基礎用語編

 

■章説明文の紹介

第5章 イスラーム経済と近代資本主義

近世は、地中海をはさんで対峙していたヨーロッバ世界とイスラーム世界との間における力のバランスが前者に優位に傾き、ヨーロッバを中心とした世界システムの形成が始まった時代とされている。

それは、世界経済の中心が地中海周辺から大西洋周辺へと移動するという国際環境の地政学的転換をともなった。その結果、近代において、イスラーム世界は世界経済の主流から取り残されてしまう。

それでは、あれほど市場経済の繁栄をみたイスラーム世界が、なぜ資本主義を生み出しえず、世界経済での「負け組」となったのだろうか。

 

第1節 「近代」への序曲 大航海時代のイスラーム世界

近世は、大航海時代という言葉で表現されてきた。この時代に、地政学的な国際環境が大きく変わった。

イスラーム世界にとって、大航海時代という言葉が意味するところは、世界の基幹交易ルートが地中海経由から大西洋経由となり、その結果、イスラーム経済はその繁栄の基盤を失ったことである。

その象徴が、1498年のポルトガル人ヴァスコ・ダ・ガマによる喜望峰経由インド航路の発見である。

この広く知られている見解は、アカデミズムのなかでは否定されている。そもそも、商業が繁栄し、大小の交易ルートが網の目のように張りめぐらされていたイスラーム世界が、一本の航海ルートの「発見」でただちに衰退にむかうなどありえないことは、少し考えてみれば分かることである。

もっとも、長期的にみるならば、この基幹交易ルートの変化が、イスラーム経済の相対的な後退をもたらしたことは否定できない。

 

第2節 近世イスラーム経済の特徴

近世から近代にかけて、経済の中心が地中海周辺から大西洋周辺へと徐々に移動し、そのことがイスラーム経済の影響を与えたことは間違いない。

しかし、「中洋」であるイスラーム世界の経済は、ヨーロッパ・地中海との関係とともに、あるいはそれ以上に、アジアとの関係のなかで展開していた。

とはいえ、近世においてイスラーム経済が相対的に後退したことは明らかである。その転換点については、16世紀から19世紀までの大きな幅をもって論じられているが、ここでは、この転換点が何時であったかの議論は避けて、近代においてその後退が顕在化するイスラーム経済の特徴を整理しておこう。

 

第3節 重商主義 vs イスラーム経済

近年では、海のアジア論に象徴されるように、ユーラシアの交易ルートの陸路から海路への変化が強調されている。

しかし、イスラーム経済の文脈においては、内陸ルート衰退論の核心は、内陸ルートが海上ルートに後れをとったこと以上に、内陸ルートにおいてさえ、交易の主導権がイスラーム商人の手からヨーロッパ商人の手に移ったことである。

このことは、イスラーム商人とヨーロッパ商人がそれぞれ行動基準としたイスラーム経済と重商主義という二つの経済システムの衝突でもあった。

 

第6章 近代におけるイスラーム経済の後退

近代という時代区分は、ヨーロッパが作り出したものである。経済史の場合、その画期は18世紀のイギリスに始まる産業革命であり、その結果、西欧において形成されたのが近代資本主義である。

非ヨーロッパは、自ら近代資本主義を産み出すことができなかった。そのため、非ヨーロッパでは、近代という時代は外から与えられたため、前近代と近代との時代区分は多分に曖昧である。

実際、通説的な非ヨーロッパの歴史では、近代を産み出したヨーロッパとの邂逅、そしてそれに始まるヨーロッパを中心とした世界経済のなかでの経済生活の開始をもって近代の始まりとされている。イスラーム世界についても、同様である。

近代において、イスラーム世界は強大な軍事力と経済力をもつヨーロッパ列強に圧倒され、実質的な植民地体制下に置かれることになる。巨大なイスラーム王朝は規模の小さな国民国家群へと編成され、イスラーム経済の繁栄基盤であったグローバルなネットワーク外部性はズタズタにされた。

 

第1節 国民国家と近代資本主義

産業革命から始まる近代資本主義の経済主体は、国民国家であった。そのため、近代経済史は、国家間の経済競争として描かれてきた。

国際経済のシステムも、国民国家を単位とした。イスラーム世界もまた、近世におけるイスラーム王朝の領域がヨーロッパ列強からの圧力のもとで、国民国家群として再編成され、それぞれの国家は、国民経済政策を実施していくことになる。

 

第2節 中東諸国体制の形成

現在の中東は、弱小国家の集合体である。

イスラーム王朝の解体から形成された国民国家の集合体としての政治体制は、中東諸国体制と呼ばれる。

それは形式的には「民族」を単位とした世俗的な政治体制であり、以後、国民のイスラーム教徒としての宗教感情との間にどう折り合いをつけて国家を建設するかるかの難問を抱え込むことになる。

 

第3節 世界経済史のなかのイスラーム経済

近代における中東諸国体制形成後、中東イスラーム世界では国家単位での経済の歴史が始まった。

それは、近代までのイスラームを理念とし、イスラームを体制としたイスラーム経済の歴史とは異なる、経済の歴史のストーリーである。

 

第7章 現代におけるイスラーム経済の復活

近代において、イスラーム経済の繁栄は失われ、イスラーム世界は資本主義と国民国家を両輪としたヨーロッパ経済の後塵を拝することになった。

ところが、近代資本主義との対抗のなかで「負け組」となったイスラーム経済が、現代になって、ふたたび注意を引くようになった。

それは、個人の欲望と社会の福祉の間でダイナミックに展開してきたイスラーム経済の現代の社会経済環境への対応の結果である。

 

第1節 なぜイスラーム経済は後退したのか

イスラーム経済は、近代においてその輝きを失った。

そのため、近代におけるイスラーム経済の衰退については、なぜあれほど市場経済を発達させたイスラーム世界が近代において資本主義を作り出すことができず、ヨーロッパ経済の後塵を拝することになったのかとの問いが立てられてきた。

いくつかの仮説のなかで、有力なのは(1)貿易路の変更、(2)経済システム間の競争、そして、(3)資本蓄積システムの欠如の三つである。

第一の貿易路の変更と第二の経済システム間の競争については、すでに述べた。そこで、本節では、第三のイスラーム経済の本質にかかわる資本蓄積システムの欠如について解説する。

 

第2節 なぜイスラーム経済は再び注目を集めるようになったのか

1970年代後半以降、イスラーム経済は、にわかに注目を集めるようになった。

それは、時代遅れとみなされつつあった宗教と結びつけられて主張されたところから、ある種の驚きをもって迎えられた。

イスラームという宗教の教義のなかに独自の経済プログラムをみようというイスラーム経済論は、政治、経済、社会、文化のすべてに台頭したイスラーム復興の経済領域での現われである。

その背景には、世界経済における二つの巨大な市場の出現、つまり増加するイスラーム教徒人口とオイルマネーの発生による地球規模での市場の台頭があった。

イスラーム教徒は世界人口の25%までを占めるまでになり、産油国の多くがイスラーム国であったところから、オイルマネーの出現とともに、イスラームが注目されるようになった。

 

■近代を相対化するイスラームの知恵とは|参考文献リスト

The Asian Trade Revolution of the Seventeenth Century. The East lndia Companies and the Decline of the Caravan Trade
ユーラシア内陸ルート交易の衰退 https://society-zero.com/icard/845821

The Origins of Western Economic Dominance in the Middle East. Mercantilism and the lslamic Economy in Aleppo, 1600-1750
ユーラシア交易における主導権の推移 https://society-zero.com/icard/914663

アジア間貿易の形成と構造
陸路での輸送規模を数量的に把握することは困難 https://society-zero.com/icard/536207

アジア経済のトポロジー
資本蓄積システムの欠如 https://society-zero.com/icard/198022

アラブの人々の歴史
イスラーム体制の崩壊 https://society-zero.com/icard/375557

イスタンブル交易圏とイラン:世界経済における近代中東の交易ネットワーク
ネットワーク外部性への依存 https://society-zero.com/icard/561052

イスラーム世界の危機と改革
国民国家システムへの移行 https://society-zero.com/icard/247496

イスラム経済論
イスラーム事業体への評価 https://society-zero.com/icard/658579
小さな組織・ネットワークによる信用・短期的投資 https://society-zero.com/icard/405375
イスラーム経済の将来 その1 https://society-zero.com/icard/350019

イスラム世界の経済史
海のアジア論 https://society-zero.com/icard/493799
ネットワーク外部性への依存 https://society-zero.com/icard/561052

イスラム世界はなぜ没落したか?
イスラーム経済形成の背景 https://society-zero.com/icard/369367

イスラム世界論
資本主義に対抗して主張されたイスラーム金融 https://society-zero.com/icard/802334

オスマン帝国治下のアラブ社会
ネットワーク外部性への依存 https://society-zero.com/icard/561052

クリフォード・ギアツの経済学
イスラーム経済は流通と消費の経済 https://society-zero.com/icard/623206

トルコ近現代史
国民国家システムへの移行 https://society-zero.com/icard/247496
イスラーム体制の崩壊 https://society-zero.com/icard/375557

ヨーロッパ覇権以前
イスラーム世界は東洋と西洋を結ぶ「中洋」 https://society-zero.com/icard/766246

会社はこれからどうなるのか
小さな組織・ネットワークによる信用・短期的投資 https://society-zero.com/icard/405375

海が創る文明
沿岸交易と遠距離交易 https://society-zero.com/icard/453442

海の帝国
海のアジア論 https://society-zero.com/icard/493799

経済史の理論
経済の変質:流通から生産へ、商人から企業家へ https://society-zero.com/icard/759106

現代イスラーム金融論
イスラーム事業体への評価 https://society-zero.com/icard/658579

市場社会のブラックホール
イスラーム経済の将来 その1 https://society-zero.com/icard/350019

資本の世界史
世界経済史の叙述から消えたイスラーム経済 https://society-zero.com/icard/391188

社会経済史学の課題と展望
ヒマーヤ(保護)による輸送ルートの安全確保 https://society-zero.com/icard/354273
保護主義的な重商主義経済 https://society-zero.com/icard/688906
自由主義的なイスラーム経済 https://society-zero.com/icard/237924

探求
イスラーム経済の将来 その2 https://society-zero.com/icard/569279

東インド会社
交易ルートと輸送手段 https://society-zero.com/icard/112724

比較史のアジア 所有・契約・市場・公正
「法人」概念の希薄さと短期的な契約観 https://society-zero.com/icard/495721
イスラーム経済は流通と消費の経済 https://society-zero.com/icard/623206

文明としてのイスラム
陸路における輸送コスト https://society-zero.com/icard/823647
中東諸国体制は弱小国家の集合体 https://society-zero.com/icard/276527
イスラーム体制の崩壊 https://society-zero.com/icard/375557

文明の海洋史観
海のアジア論 https://society-zero.com/icard/493799

文明の生態史観
イスラーム世界は東洋と西洋を結ぶ「中洋」 https://society-zero.com/icard/766246

無利子銀行論
資本主義に対抗して主張されたイスラーム金融 https://society-zero.com/icard/802334

緑の資本論
資本主義に対抗して主張されたイスラーム金融 https://society-zero.com/icard/802334

歴史の現在と地域学
中東諸国体制は弱小国家の集合体 https://society-zero.com/icard/276527

 


■iCardbookのメリット 読書にコスパ

・通学・通勤のスキマ時間にさくさく読める

・著者の頭の中の、「設計図」がすぐわかる

・次に読むべき本へすぐリーチ

■アイカードブック(iCardbook)とは

・アイカードブック(iCardbook)は百篇程度の「知識カード」を編成した、カード型専門書(※)。

・[カードタイトル(カード番号)+百五十字前後の本文+参考文献(書籍、論文、Web記事他)+註]で構成された「知識カード」が、知のネットワークを可視化します。

・スマホなどのモバイル端末から、隙間時間に専門書の「設計図」を閲覧できる。アイカードブック(iCardbook)はアクティブ・ラーナーのサポート・キットです。

アイカードブックの「アイ」は、inspire、intelligent、innovativeの「i」。知の旅人をinspireする書き物、関心と興味の外に広がる「知の世界」へ誘うintelligentな書き物、知のエコシステムを刷新するinnovativeな書き物。それがiCardbookです。