社会は誰がつくるものなのか 民主主義って何?

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「民主主義(デモクラシー)」の語源は、ギリシャ語の「デモス(人民)」です。民主主義国においては、立法者や政府ではなく、国民に主権がある、という立て付けになっています。つまり社会は国民が作る、が「社会は誰がつくるものなのか」の一義的な答えになります。しかし各自が勝手に「これが私の望む社会だ」と動き出すと財と力をもった者の意向に流されますし、一人で社会の様々な問題すべてに解をもてるわけではありません。

「社会は国民が作る」の公正な具体化のため、議員を選出し条例、法律を作り、その条例、法律を具体化する専門家集団である官僚組織、行政機関を組成する、それで「社会は国民が作る」にリアリティを与えたのが近代社会です。

これに対しもっと別のやりかたもあるよ、というのがかつてのイスラーム世界でした。

もっと教えて!

イスラームの教えは個人の欲望に肯定的です。この価値観に「森羅万象は唯一神アッラーの被造物」という思想を組み合わせることで、共同体での社会的公正への配慮を実現しています。その象徴的な制度がワクフ(イスラーム的寄進)です。もうひとつの、「「社会は国民(ここでは共同体の成員)が作る」の道がイスラームの経済社会秩序といえます。

「イスラーム世界の都市には、市長もいなければ市役所もない。権力が都市の秩序を維持したのではなかった。制度化された、閉鎖的な自治組織が都市を維持したのでもなかった。さまざまなワクフが維持したのである。そしてワクフによって維持された施設は、特定の「市民」だけが利用したのではなく、誰でもが自由に利用できたのである。(『都市の文明イスラーム (講談社現代新書―新書イスラームの世界史)』後藤明 p.98)」

どうしてこんなことが可能になっていたのか。それを知るには『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』にあたられることをお勧めします。


 

◎章単位の説明文:下記は『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』、その Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)の第七章内の説明を一括でまとめたものです。

第7章 ワクフ制度にみるビジョンの制度化

イスラーム経済の特徴は、繰り返しになるが、神の唯一性と絶対性を前提としたイスラームの経済に対するビジョンから生じる。そして、このビジョンは、個人の欲望の肯定(個人のインセンティブ)と共同体の福祉(共同体的な社会規範)の重視からなっていた。その一つの現れが、商売におけるリバー(利子)の問題であった。

ところで、ビジョンはビジョンでしかない。ビジョンがビジョンのままにとどまらず、社会に、それも長い期間に渡って影響を与えるためには、ビジョンが制度化される必要がある。このビジョンの制度化の例として、先にヒスバ(社会福祉)の制度を挙げた。以下に説明するワクフ(イスラーム的寄進)制度は、ヒスバの制度とも関係するイスラームの経済ビジョンの社会での具現化であった。

 

第1節 ワクフ制度

ワクフは、イスラーム世界において広範に普及した寄進制度である。しかし、それはほかの宗教や文明において展開した寄進制度とは性格をことにした。そもそも、イスラーム世界には、キリスト教の教会や仏教の寺院のような制度化された信仰の中心を持たない。

それでは、ワクフとは、誰に対する寄進なのであろうか。それは、実態を持たない神あるいは社会(信徒共同体としてのウンマ)に対してである。その結果、ワクフは、「社会に埋められた経済」としてのイスラーム経済を体現した制度である。

 

第2節 ワクフ制度の独自性

寄進は、他の宗教や文明にも見られる普遍的な宗教的行為である。しかし、イスラームの寄進であるワクフには、ほかの宗教や文明の寄進にはない特徴を持ち、社会生活において多様な役割・機能を果たした。

ワクフは、個人の欲望の肯定(個人のインセンティブ)と共同体の福祉(共同体的な社会規範)の融合というイスラームにおける経済ビジョンを体現した寄進制度である。

それは、イスラーム経済の「社会に埋められた経済」としての性格をよく示している。

 

第3節 ワクフ制度の社会的機能

前近代のイスラーム世界において、ワクフは広範に展開した。とりわけ、都市において、そのほとんどの社会インフラはワクフによって維持された。

その背景には、「社会に埋められた経済」を体現したワクフ制度が社会の各層に便益を与えたからである。

 

第4節 ワクフ制度と都市空間

ワクフ(イスラーム的寄進)は、都市において、広範に普及し、都市空間の景観と機能をも決定づけた。

それは、ワクフ制度の特徴から、都市の中心部にワクフ物件である商業・営利施設とワクフ施設である宗教・教育・慈善施設が集積していたからである。

 

第5節 経済統合システムとしてのワクフ

ワクフ(イスラーム的寄進)は、「社会に埋められた経済」としてのイスラーム経済を体現した制度であった。

その独自な性格は、経済人類学者カール・ポランニーの経済論を援用することによって、クリアーに説明できる。

 


 

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・第七章の参考文献一覧
https://society-zero.com/icard/islum1_chap7_reference