イスラームの経済観とは

投稿日:


日本であまりピンときませんが、世界には17億を超えるムスリム(イスラームを信奉する人々)がいます。その分布も中東だけでなく、アジア、アフリカ、欧米と広大です。つまり21世紀の地球上で私たち日本人などくらべものにならないプレゼンスを誇っているのです。しかもイスラームが生まれた7世紀の社会でも、多くの人々から歓迎され急速に現在のアラビア半島に浸透していきました。これだけの発展のカギは多様性にあるのですがしかし、イスラームとしての統一性も長期にわたり、かつ広大な地域で保持し続けています。この両立を支えているのがイスラームの経済観です。

もっと教えて!

イスラーム世界の経済は宗教の上に成立しています。これは日本人には理解が難しいところでしょう。日本人のほとんどは、経済は宗教ともっとも遠いところにある、と考えています。けれどもその一方で経済やさらには社会の運営において、もっと倫理や道徳の要素が入ってこないといけないのではないかとも、最近考えてはいないでしょうか。

さてこのイスラームの経済観で最も特徴的なこと、それは固有の経済ビジョンを持つが、特定の経済プログラムは持たない、という点です。

この特徴が奏功、イスラームが形作る社会秩序に柔軟性と変化への適応性が付与されて、長期にわたりかつ広大な地域でイスラームの経済社会が持続的に発展し続けてきたのです。

 


◎章単位の説明文:下記は『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」』、その Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)の第二章内の説明を一括でまとめたものです。

第2章 ほかの宗教や文明と異なるイスラームの経済観

一般的な日本人の目から、経済は宗教とは対極にある領域にみえる。その経済の領域において、もしほかの宗教にはないイスラームの特徴がみられるならば、それこそが、「イスラーム的なるもの」をもっとも如実に示すことになるだろう。

つまり、逆説的ながら、経済はイスラームという宗教を知るのに最もふさわしいテーマということになる。そこで、宗教と経済とは相いれないという思い込みをいったん捨てて、虚心坦懐に、イスラームの経済観を検討してみよう。論点は、次の二つである。

第一は、イスラームには、時代と地域を超えて繰り返される経済のビジョンがあるが、それはどのような特徴を持っているか。

第二は、イスラームはこのビジョンを、時代と地域によって異なる社会経済情況にどのような論理でもって適応させ、制度化していったのか。

第1節 経済ビジョンを持つが、経済プログラムは持たないイスラーム

イスラーム経済を理解する鍵の一つは、ビジョンとプログラムを分けて考えることである。ビジョンはアイデアであり、具体的な企画の源泉である。プログラムは企画の具体化であり、具体化のための工程である。イスラームは、この意味における経済のプログラムを持たない。

イスラームの経済観を特徴づけるのは、ビジョンである。それはコーラン、つまり神の啓示である。そして、ビジョンを、時と場所の違いに応じて具体化したのがプログラムである。それゆえに、イスラーム世界では、時と場所に関係なく同じビジョンが繰り返され、時と場所の違いに応じて異なったプログラムが作成された。

第2節 神の言葉であるコーランはビジョンの源泉

イスラーム教徒であるか否かを決める基準は、最終的には、コーランを神の言葉として信じるか否かである。イスラーム教徒でない者にとって、コーランが神の言葉であるとは、にわかには信じられない。しかし、イスラーム教徒にとって、すべてはこの事実から出発する。

そして、イスラームの神は人間を含めて、この世の全てを創造した、唯一絶対的な存在である。被造物である人間は、この神の前では、「神の僕」として、ただ跪き、服従するだけである。イスラームの意味は、完全服従である。

ほかの世界的な宗教や文明にはないイスラームの独特な経済に対するビジョンは、この世界観に基づいている。イスラーム教徒にとって、コーランは全てのアイデアの源泉である。

 


◎「第2章 ほかの宗教や文明と異なるイスラームの経済観」の参考文献一覧のURLです。飛び先で書籍名や、書籍の下にあるタイトルをクリックするとさらに深く、広い知識が得られ、お得ですよ。

・第二章の参考文献一覧
https://society-zero.com/icard/islum1_chap2_reference