ヨーロッパ中心史観からくるバイアス

近世は、世界経済史において、ヨーロッパを中心とした世界経済システムが形成される時代とされてきた。

オスマン帝国は世界帝国であり、ヨーロッパと隣り合わせであったにもかかわらず、その世界経済史における評価は定まらない。その理由の一つに、ヨーロッパの視点からオスマン帝国をみるという、ヨーロッパ中心史観からくるバイアスがあると思われる。

エマニュエル・ウォーラーステインはその近代世界システム論の中で、近世は世界経済がヨーロッパを中心としたシステムへと統合される時代だと主張した。その議論は、ヨーロッパ中心史観に基づくものではなく、イスラーム世界の近世を評価する際に、重要な分析枠組みを提供する。

しかし、そうであったとしても、イスラーム経済史の立場からみて、古代から中世への移行期を扱うピレンヌ・テーゼ* がそうであったように、ヨーロッパを中心とした、ヨーロッパの立場からの問題設定のようにみえる。

参考文献:
「世界経済史におけるイスラ-ムの位置」加藤博 『社会経済史学の課題と展望』  社会経済史学会編(有斐閣、2002年)
ヨーロッパ世界の誕生 マホメットとシャルルマーニュ(講談社学術文庫)』  アンリ・ピレンヌ 佐々木克己ほか訳(講談社、2020年)
『世界歴史叢書 イスラム世界の成立と国際商業~国際商業ネットワークの変動を中心に』  家島彦一(岩波書店、1991年)
近代世界システム1―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立 (岩波モダンクラシックス)』  イマニュエル・ウォーラーステイン 川北 稔訳(岩波書店、1981年)

* ベルギーの歴史家ピレンヌ(1862~1935)が提唱したテーゼ。中世社会成立の条件に「商業」を重視したかれは、封建社会の成立にイスラーム勢力による地中海進出という外的要因を強調した。すなわち、それまでの民族の大移動をもって古代と中世とを分ける伝統的時代区分に対し、イスラームが地中海を制覇した8世紀中葉以降に真の中世が始まるとした。[編集部]

■関連知識カード/章説明他:
イスラーム世界はネットワ-ク社会
世界システム論


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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