「差異」の類型化とイスラーム商人の三つの類型

実に見事な類型化である。そこでは、商行動における三つの利潤創出原理、つまり、空間(距離)に基づく「差異」、時間に基づく「差異」、そしてその二つが結びついた情報・信用に基づく利潤の創出原理が整理されている。

利潤の源泉を、人間の労働という実態とは無関係な、二つの価値システム間の「差異」という抽象的な関係に基づかせている点において、11世紀のディマシュキーの議論は、21世紀の経済学泰斗、岩井克人の指摘* を敷衍するかのような内容である。

参考文献:
「イスラーム市場社会の歴史的構造」加藤博 『比較史のアジア 所有・契約・市場・公正 (イスラーム地域研究叢書)』  三浦徹ほか編(東京大学出版会、2004年)
商品学の誕生―ディマシュキーからベックマンまで』  風巻義孝(東洋経済新報社、1976年)
ヴェニスの商人の資本論(ちくま学芸文庫)』  岩井克人(筑摩書房、1992年)

* 現代の経済学者岩井克人は、経済取引の利潤創出を二つの価値システムの間に不可避的に存在する「差異」に求めた。そして、ヴェニスの商人の経済行動と産業資本主義とを比較して、前者が空間的に離れた二つの地点間に存在する価格格差を、そして後者が生産手較を奪われた労働者の労働力の価値とかれらの労働の生産物の価値との間に存在する格差を、利潤の源泉とするという。


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.2 市場経済における「イスラームの道」(歴史編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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