ワクフの社会的意義:その3 国家にとって

ひとの出入りが激しいイスラーム世界では、異民族支配はあたりまえであった。住民構成もまたモザイク社会と称されるほど人種、民族、宗教・宗派を異にする社会集団が混住していた。そのようななか、権力とさまざまな社会集団をつなげたのはワクフ(イスラーム的寄進)であった。

つまり、イスラーム世界の政治当局にとって、社会の普遍的規範であるイスラームの宗教的精神の発露であるワクフの設定は、社会との繋がりを確保し、統治の正統性の承認を得るための不可欠な手段であった。

参考文献:
文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』 第6章:宗教・第3節:イスラム社会に普及するワクフ  加藤博(東京大学出版会、1995年)
イスラム世界の経済史』 第二部第5章:ワクフ(寄進)制度にみるイスラム市場社会  加藤博(NTT出版、2005年)


 

★この記事はiCardbook、『イスラーム世界の社会秩序 もうひとつの「市場と公正」 Vol.1 イスラーム経済社会の構造(理論編)』を構成している「知識カード」の一枚です。


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