ワクフとザカートの可能性(その3)

ワクフやザカートのしくみは近代国家が直面してきた社会福祉サービスの財政負担の問題も解決する可能性を持っている。

第2章第1節「加速する資本主義」で述べたように、資本主義を隘路に追い込んだ遠因は、政府が財政負担の重くなった社会福祉サービスを市場化してきたことにある。これに対して、ワクフやザカートにおける社会的弱者の支援の原資は、市場で生み出された儲けに全面的に依存している。これは、政府に頼ることなく、市場の力だけで富の再分配機能を実現する画期的なしくみである。実際、近代以前のイスラーム世界では、そうした自律的な市場システムを通したワクフやザカートによる富の再分配が実現していたのである。

参考文献:
「現代イスラーム経済の挑戦―ポスト資本主義時代の新たなパラダイムのために」長岡慎介 『秩序の砂塵化を超えて―環太平洋パラダイムの可能性』221-248頁、  村上勇介・帯谷知可編(京都大学学術出版会、2017年)
イスラム世界論―トリックスターとしての神』  加藤博(東京大学出版会、2002年)

 


★この記事はiCardbook、『資本主義の未来と現代イスラーム経済(下) 金融資本主義からの脱却と「利他利己」の超克』を構成している「知識カード」の一枚です。



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