サバンナ進出が早い離乳と多産をもたらした

サバンナに出た初期人類が直面した資源の枯渇と高い捕食圧によって、乳児死亡率が特に高まってあろう。それに対抗するには、多産が最も有効だったに違いない。繁殖率を上げるには、授乳を早くに終えて発情を再開させることで出産間隔を短くし、多産につなげる必要があるI)よく誤解されることであるが、進化は集団や個体の意思を反映して起きるわけではない。そういう意味では、「人類祖先が高い乳児捕食圧に『対抗するために』子を早く離乳させ多産になった」という表現は正しくない。人類一人ひとりに意思があるか否かは、進化には無関係だからだ。より正確に言うならば「たまたま離乳が早く出産間隔が短いという特徴を遺伝的に持った個体が、乳児死亡率が高いというサバンナの環境に適していたため、他の個体より多くの子供を残すことができた。したがって、徐々に短い離乳期間をつかさどる遺伝子が人類祖先の集団全体に広まった」と説明すべきである。最初の説明は、二つ目の説明を簡略化したものに過ぎない。

事実、現代人の離乳期は他の霊長類の一般則からの推定よりも、ずっと早い。霊長類一般には、離乳期は大臼歯が生え始める時期と一致する。この一般則から言えばヒトの離乳期は五~七歳ごろであると推定される。しかし実際には、多くの文化圏においてヒトの離乳はもっと早くに起こる。


■参考文献
『人類進化論——霊長類学からの展開——』第三章・第三節 人類の生活史の特徴  山極寿一(裳華房、二〇〇八年)

『家族進化論』第四章・第九節 人類の生活史と進化  山極寿一(東京大学出版会、二〇一二年)

 

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I. よく誤解されることであるが、進化は集団や個体の意思を反映して起きるわけではない。そういう意味では、「人類祖先が高い乳児捕食圧に『対抗するために』子を早く離乳させ多産になった」という表現は正しくない。人類一人ひとりに意思があるか否かは、進化には無関係だからだ。より正確に言うならば「たまたま離乳が早く出産間隔が短いという特徴を遺伝的に持った個体が、乳児死亡率が高いというサバンナの環境に適していたため、他の個体より多くの子供を残すことができた。したがって、徐々に短い離乳期間をつかさどる遺伝子が人類祖先の集団全体に広まった」と説明すべきである。最初の説明は、二つ目の説明を簡略化したものに過ぎない。