食物と天敵がメスの社会性を決め、メスの社会性がオスの社会性を決める

では、性差はどうだろう。霊長類では一般に、メスの社会性の方が食物の影響を強く受けるといわれる。I):子どもを育てるのにかかるコストに雌雄差があるからだ。霊長類は他の哺乳類と比べ妊娠と授乳の期間が長い。メスは育児に多大なエネルギーを必要とし、栄養条件の良い場所を求める。対してオスは育児への寄与が一般に小さく、栄養条件よりも交尾相手となるメスを獲得することの方が重要だ。

また、食物と天敵の多寡がメスの群れの大きさを決め(※)、メスの群れの大きさが群れに受け入れられるオスの数を決める。

オスの社会性にはもう一つ、子殺しなどの社会的要因も関係するが、これについては次章で説明しよう。

※:捕食者の危険が高いところでは、大きな群れサイズの形成が促進される。すると群れの個体間での食物をめぐる競合が高まり、食物量とのバランスで最適な群れサイズが決まる。


■参考文献
『サルの食卓』  中川尚史(平凡社、一九九四年)

『霊長類生態学——環境と行動のダイナミズム』  杉山幸丸編著(京都大学学術出版会、二〇〇〇年)

 

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I. :子どもを育てるのにかかるコストに雌雄差があるからだ。霊長類は他の哺乳類と比べ妊娠と授乳の期間が長い。メスは育児に多大なエネルギーを必要とし、栄養条件の良い場所を求める。対してオスは育児への寄与が一般に小さく、栄養条件よりも交尾相手となるメスを獲得することの方が重要だ。