実物界からの離脱を回避するにはどうしたらよいのですか?

「近代(化)」の思潮の内側にヒントを探る

科学革命、市民革命、産業革命、この三大革命とともに立ち現れた「近代(化)」の思潮に、経済学が実物界から離脱していく思考の機縁があったのです。そうだとすると、「近代(化)」の思潮そのものの内側から、思考の限界を突きやぶるヒントを探ることが可能であり、かつ重要です。

なぜなら、古典派経済学や新古典派経済学の思考の枠組みの中で「実物界からの離脱」で生じる問題を解決するのは、かえって間違った方向へ行く危険性があります。またまったく外部からの批判を繰り返すのでは、ただいま現在の「現実」の中に生きる人々の考えを変えることが難しいからです。

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デカルト的二元論をデカルトの言説から再検討する

「古典派経済学や新古典派経済学で実物界からの離脱が起きたのはなぜ?」で、デカルトが精神と物質との二元論を打ち出したことに触れました。彼は『方法序説』の出版でこの考えを広く伝えようとしたのでした。「我、考えるゆえに、我あり」も真理でしょうが、同時にその「我」の目の前には他者という、もう一人の「我」がいるのも真実でしょう。本を読んでもらおうと考えたデカルトも、無意識のうちにそれは知っていたはずです。

デカルトが「我、考えるゆえに、我あり」と考えたとして、同時に本の出版は、言語、そして他者の存在を前提にしています。

他者性から世界を、経済を見直してみる

人は、独力では生きていけないという人間観は、古代世界のアリストテレスにまでさかのぼります。この考えをさらに錬磨し、20世紀、フッサールという哲学者は他者性から哲学を再構築する仕事をしました。現象学と呼ばれています。

さらに複数の個人が相互に共有する認識基盤を「制度」ととらえ、この観点からヴェブレンは経済学の中に制度学派を形成しました。ちなみに言語こそは究極の制度です。

これらの研究はコミュニティの持続性、つまり人間社会が持続して存在していける条件を探る知的活動へと進み、人間の身体性(デカルト的二元論で区分され、その後、理性の下に見られた)の復権、自然(人間の身体こそは自然の一部です)を経済思想の中に取り入れ、むしろ環境の中に埋め込まれた人間の経済活動という視点の獲得へとつながっていくのです。

「環境の中に埋め込まれた経済」の概念は、人間の身体も、身体を含む自然も、人間の理性(精神活動としての意思決定)からは独立して自身を維持し、ここにあるという発見がもたらした、コペルニクス的大転回を、経済学に促す契機となるものでした。

 


実物界からの離脱を回避しようとするとき参照すべき概念がいくつかあります。他者性、身体性がまずあげられます。フッサール、メルロ=ポンティらの仕事です。ヴェブレンが主導した制度学派の所説、また「人間の条件」の本体としての「地球」の存在を指摘したアーレントの業績にも触れるべきでしょうか。それらを知る参考となる書籍を紹介していきましょう。

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■参考文献(書籍)リスト

(参考文献のもっと詳しい内容は、書籍タイトルをクリック。知識カード(書名の下)もクリックするとコンテキスト(文脈)がわかりとても便利。)

For The Common Good
 コミュニティの持続可能性という課題
デカルト的省察
 他者性から哲学を構築したフッサール

メルロ=ポンティ・コレクション
 身体性を欠くことについてのデカルト批判
 「自然」に育まれ、依存する人間観
環境と経済を再考する
 人間の自然への優位・精神の物質への優位という考え方の限界
 ことばは他者を前提にしている
 長期間の思考という実験による身体性への気づき

形而上学(上)
 アリストテレス的自然観
現象学
 他者性から哲学を構築したフッサール

言語と自然
 身体性を欠くことについてのデカルト批判
 「自然」に育まれ、依存する人間観
言語的思考へ
 複数の個人によって相互に共有された認識基盤としての「制度」 (1)

自分を知るための哲学入門
 他者性から哲学を構築したフッサール
人間の条件
 複数の個人によって相互に共有された認識基盤としての「制度」 (3)
 身体とその外部(自然)の自律的挙動
 「人間の条件」の本体としての「地球」

政治学
 ひとりでは生きていけない人間
善い社会
 複数の個人によって相互に共有された認識基盤としての「制度」 (1)
 複数の個人によって相互に共有された認識基盤としての「制度」 (2)

他者のロゴスとパトス
 ことばは他者を前提にしている
知覚の現象学
 「自然」に育まれ、依存する人間観


◎これは『なぜ経済学は経済を救えないのか(倉阪秀史)上下巻』の「(上)第三章 エコロジカル経済思想への道程」の参考文献(書籍)をリスト化したものです。

書籍のフルタイトルは『なぜ経済学は経済を救えないのか━資本基盤マネジメントの経済理論へ━(上) 視座と理念の大転換』です


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