17世紀から19世紀の経済学にはどんな特徴があるの?

富の源泉をめぐる論争があった

17世紀から19世紀にかけて、それまでの重商主義から重農主義への転換が進みました。すなわち16世紀末から18世紀にかけて西ヨーロッパの国々を支配した経済思潮は重商主義と呼ばれるもので、保護貿易を大前提にしていました。その後これに対し、富の源泉は土地からの生産物にあるとし、その流通をこそ自由にすべしとする重農主義が主流となっていきました。これに対し異議を唱えたのがアダム・スミスでした。

 

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重農主義とケネー

15世紀末の新大陸の発見や、東インド航路の開拓によって、西ヨーロッパ諸国の経済は新しい転機を迎えました。新市場の生産物と資源、植民地の獲得をめぐって、スペイン、オランダ、イギリス、フランスの諸国の間に激しい商業戦が展開されたのでした。

ところが18世紀の後半、フランス絶対王政は、特権的独占商人や奢侈品工業の保護育成を中心とするフランス型重商主義政策や、金融政策を中心とする商業主義(ジョン・ローの体制:フランス初の紙幣の導入とバブルの生成・崩壊)によって、経済的にも財政的にも破綻。その再建策として大農経営の発展を提唱したフランソワ・ケネーを創始者とする重農主義が台頭してきました。

ケネーは1758年に著した『経済表』で、地代、賃金、購買の形をとって経済を流通する農業余剰が経済の原動力だとし、それまでの商業と工業をもって富の源泉とする説を避けました。すなわち、商工業は原料と食料品を農業に依存している。だからその発展は農業の発展によらななければならない。農業経済の資本主義化をまずベースにすること、そして農業からの剰余およびそれに対する単一課税によって経済を再建すべし、と主張したのでしだ。

ちなみに『資本論』のマルクスはケネーのこの経済モデルを「実に天才的な、疑いもなく最も天才的な着想」と称賛し、自身の再生産表式の定立に役立てています。

労働価値説とスミス

流通面を重視した重商主義に反対し、生産面を考察の対象とした点で、重農主義はアダム・スミスの思想に影響を与えました。アダム・スミスはイギリス古典派経済学の父と目される人物。そのスミスでさえ、フランスで重農主義の指導者であったケネーを尊敬し、『国富論』を彼に献ずるつもりであったことが知られています(残念ながら、『国富論』が出版された1776年にはケネーは他界しましたが)。

ただし、スミスは農業が大地から富を引き出すのは、労働があってこそ、という点を重く見ました。この労働価値説の点で、土地に富の源泉をとらえる重農主義に対し批判的であったといえます。労働価値説とは、労働が価値を生み出す源泉であると考え、分業などによって労働の生産能率を高めることによって冨を増やすことができるというものです。

経済生活への自然の寄与を軽視

スミスは、労働の成果が物質的なものに体現・固定されるかどうかで、生産的か非生産的かを区分しました。工業生産物についても、農業生産物と同様に、労働の成果が固定される対象とみなしています。ただこうした考え方が主流になるにつれて、自然の恵みが軽視されていく素地ができていったことに、21世紀を生きるわたしたちは留意すべきでしょう。

労働価値説をより緻密な議論に完成させたのはリカードです。当時、農業経済を巡る議論は「地代」をどう捉えるかがポイントでした。リカードは「地代が支払われるから穀物が高価なのではなく、穀物が高価だから地代が支払われる」と述べ、あるいはもし「誰でも自由にできる豊富な分量の土地」が存在するなら、そもそも地代は発生しない、とさえ言ったのです。つまり土地は労働が加わらなければ無価値(地代は発生しない)だというのです。

このような認識に加えて、「生産は効用の創造である」とする発想、そして市場での交換価値のみに注目する考え方が結合して、経済生活への自然の寄与を軽視する経済学ができあがっていきました。これが、経済思想の実物界からの離脱と呼ばれる現象です。

すなわち17世紀から19世紀にかけて経済学は、物質的側面を拾象しながら精緻な理論体系を構築していきました。この物質的側面の捨象は環境制約の忘却へつながり、20世紀に至り、「成長」を至上命題とする市場(原理)主義へとつらなっていくのです。


それでは、古典派経済学について、その労働価値説と物質的側面を拾象することの問題点とをめぐる議論に参考となる書籍を紹介していきましょう。

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■参考文献(書籍)リスト

(参考文献のもっと詳しい内容は、書籍タイトルをクリック。知識カード(書名の下)もクリックするとコンテキスト(文脈)がわかりとても便利。)

Traite de Économie Politique
 「生産は効用の創造である」という考え方の萌芽
 資本ストックを増加させない「非物質的商品」
アダム・スミス
 物質的な富概念の成立

環境と経済を再考する
 物質のみが富を構成する
 実物界からの離脱 (1)自然の排除
 実物界からの離脱 (2)「ごみ」の忘却
環境を守るほど経済は発展する
 自然の恵みへの分け前としての地代
 実物界からの離脱 (3)成長神話

経済学および課税の原理
 自然の恵みとは無関係な地代概念差額地代
 差額地代と機械
経済学における諸定義
 自然の恵みの存在を忘れる経済学
 物質的なもののみを「富」とする古典派経済学

経済学の理論
 限界革命による効用価値説の台頭
経済学原理
 J.S.ミルの逡巡
 新古典派経済学における労働価値説と効用価値説の接合
 マーシャルにおける「生産物」

経済思想
 市場の評価で価値が決まる
経済表
 土地の耕作が富を増加させるという経済学

国富論
 生産的労働と非生産的労働
 物質的な富概念の成立
 自然の恵みへの分け前としての地代
国民経済学原理
 限界革命

純粋経済学要論
 限界革命による効用価値説の台頭
人口論
 質的なもののみを「富」とする古典派経済学

入門 経済学の歴史
 物質のみが富を構成する
富に関する省察
 土地が最初の元資を提供する

労働経済白書 平成二八年版
 失業率という実物的経済運営指標


 

◎これは『なぜ経済学は経済を救えないのか(倉阪秀史)上下巻』の「(上)第一章 実物界からの離脱と成長経済への希求」の参考文献(書籍)をリスト化したものです。

書籍のフルタイトルは『なぜ経済学は経済を救えないのか━資本基盤マネジメントの経済理論へ━ (上)視座と理念の大転換』です


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