類人猿とヒトの食物分配の違い

類人猿は要求されなければ分配をしない。大型類人猿(チンパンジーやオランウータンなど)では、必ず高順位の者から低順位の者へと、低順位が食物をねだった時だけ分配が起こる。しかも、分配されるのは必ず価値の低い部分であり、消極的な分配といえる。

しかしヒトは自分から積極的に分配する。さらにチンパンジーの分配は食物を得た場所でのみ行われるが、ヒトは仲間と共食するため、採集した食物を運び持ち寄る。I):食物を採集し運ぶことで、仲間と分ける食物の量を調整する、ということが起き、ヒトは仲間との社会関係を食物によって操作することを知るようになる。食物の社会化、道具化である。これによってヒトは、自然条件ではなく、人為的に集団の規模や構成を変化させることを始めたのではないか。

またヒトの積極的分配には決まった方向性がなく、ねだらなくても食事を囲んで一緒に食べる。食事や食卓を飾り付け、儀式にまで発展する。


■参考文献
『森の狩猟民―ムブティ・ピグミーの生活』  市川光雄(人文書院、一九八二年)

『人類進化再考―社会生成の考古学』  黒田末寿(以文社、一九九九年)

 

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I. :食物を採集し運ぶことで、仲間と分ける食物の量を調整する、ということが起き、ヒトは仲間との社会関係を食物によって操作することを知るようになる。食物の社会化、道具化である。これによってヒトは、自然条件ではなく、人為的に集団の規模や構成を変化させることを始めたのではないか。