グドールに対する批判

例えばグドールの著書『森の隣人:チンパンジーと私』の中には、「彼は欲望と警戒の狭間で迷っているように見えた」という記述がある。このようなグドールの擬人主義的な記述法は西洋の行動学者の強い批判を受けた。

グドールやシャラーのように、欧米研究者の中にもサルの行動から擬人的な感情の動きを読み取り、名前を付ける必要性を自発的に感じていた者もいたのである。I):河合雅雄は日本霊長類学に独自のこととして、「餌づけ」「個体識別」「歴史的方法」「共感法」の四つをあげている(『ニホンザルの生態』)。ある社会を理解するには、その社会に「入り込む」、徹底したフィールドワークを基にした思考が求められる。河合のあげた「共感法」「餌づけ」「個体識別」は、この「入り込む」ことと関連している。
「共感法」はつまり、動物に対する共感を利用しながら動物の社会を理解する方法論である。また「生態的参与観察」を提唱する黒田も、「相手の動物の生活空間、すなわち自然を、観察者が生活空間として共有する大切さを強調したい(『自然学の未来』)」とする。[編集部]


■参考文献
『森の隣人:チンパンジーと私』  ジェーン・グドール(朝日新聞社、一九九六年)原著一九六九年

『心の窓―チンパンジーとの三〇年』  ジェーン・グドール 高崎和美・高崎浩幸・伊谷純一郎訳(どうぶつ社、一九九四年)原著一九九〇年

『ニホンザルの生態』  河合雅雄(河出文庫、一九六四年/一九七一年)

『自然学の未来——自然への共感——』  黒田末壽(弘文堂、二〇〇二年)

 

★この記事はiCardbook、『人類の社会性の進化(Evolution of the Human Sociality)(上)「社会」の学としての霊長類学』を構成している「知識カード」の一枚です。

◎iCardbookの商品ラインナップはこちらをクリック

 

 

   [ + ]

I. :河合雅雄は日本霊長類学に独自のこととして、「餌づけ」「個体識別」「歴史的方法」「共感法」の四つをあげている(『ニホンザルの生態』)。ある社会を理解するには、その社会に「入り込む」、徹底したフィールドワークを基にした思考が求められる。河合のあげた「共感法」「餌づけ」「個体識別」は、この「入り込む」ことと関連している。
「共感法」はつまり、動物に対する共感を利用しながら動物の社会を理解する方法論である。また「生態的参与観察」を提唱する黒田も、「相手の動物の生活空間、すなわち自然を、観察者が生活空間として共有する大切さを強調したい(『自然学の未来』)」とする。[編集部]