ジェンダーギャップ指数とは

◎国際オリンピック委員会(IOC)は2021年2月9日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の発言「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」に対し、コメントを発表、「著しく不適切(absolutely inappropriate)」としました。

The recent comments of Tokyo 2020 President Mori were absolutely inappropriate and in contradiction to the IOC’s commitments and the reforms of its Olympic Agenda 2020.
(IOC Statement on gender equality in the Olympic Movement - Olympic News https://www.olympic.org/news/ioc-statement-on-gender-equality-in-the-olympic-movement

日本人はすっかり忘れていましたが、実は東京オリンピックこそ「ジェンダー平等」を掲げる初の大会であり、同時にこちらは日本人があまり意識してこなかったことですが、世界の中で日本は「 #ジェンダー平等 」後進国と認識されてきていたのでした。そしてこの文脈で常に引用されるのが「 #ジェンダーギャップ指数 」でその16回目の調査結果「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)2020」は2020年12月16日に公表されたばかりでした。

男女間の不平等、ジェンダー格差が少ない国から序列づけるこの調査は対象国153か国。この中で日本は121位と前年の110位から11だけ順位を下げ、過去最低の順位となっていました。中国にも韓国にも劣る順位です。

・ランキング(Global Gender Gap Report 2020)

1.「TOKYO2020」はバッハ会長にとってジェンダー平等を自身の成果としたかった大会

国際オリンピック委員会(IOC)は2014年12月に臨時総会を開催、オリンピックの中長期改革計画を満場一致で採択しました。その名も正式名称「オリンピックアジェンダ2020」。つまり2020年夏季開催の東京オリンピックがその行動具体化の最初のオリパラゲームのはずだったのです。

国際オリンピック委員会(IOC)総会で採択された「アジェンダ2020」の趣旨を具体的に大会運営に反映。東京2020大会をアジェンダ2020によるオリンピック改革のスタートに。(大会ビジョン https://tokyo2020.org/ja/games/games-vision/

そしていくつもの改革項目の中にまさに、 男女平等、女性の参加率50%を目標とし、男女混合団体種目の採用を推奨する、などの項目が掲げられ、実際選手構成として女性の割合を5割りに近づける努力が実を結んでもいたのでした。

東京大会は、
・史上初めて各国のNOC(国内オリンピック委員会)に男性および女性メンバーが最低1人ずつ含む
・各NOCは、開会式において共同で旗手を務める選手を男女1人ずつ選出
・オリンピック大会に48.8%、パラリンピック大会では40.5%の女性アスリートが参加
(大会におけるジェンダー平等 : Athlete365 https://bit.ly/3aTiSLp

さらに忘れてならないもうひとつのポイントがあります。このオリンピック改革は2013年9月にIOC会長として就任したトーマス・バッハ氏の選挙公約であり、男女平等を主要項目に数える「オリンピックアジェンダ2020」こそ、会長として面目躍如の施策であったのです。

Strengthen the 6th Fundamental Principle of Olympism by including non-discrimination of sexual orientation in the Olympic Charter.(Olympic Agenda 2020 - Strategic Roadmap for the Olympic Movement https://www.olympic.org/olympic-agenda-2020

 

2.ジェンダーギャップ指数で「健康」項目以外は後進国の日本

ジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)は世界経済フォーラム(例年1月に #ダボス会議 を開催)のレポートで公開されているデータです。

「女性 ÷ 男性」の計算によって割り出され、男女が平等であれば「1」、格差が大きければ「0」に近づく指数です。

政治・経済・教育・健康の4つの分野をスコア化し、そこから算出された総合スコアをもとに、各国の男女平等のランキングを作成しています。

調査は2006年から行われ、すでに14回を数え、そのたびに日本のいびつさ(経済力で先進国のはずなのに実は社会構造が古くさび付いている国)との印象を世界に与え続けてきました。世界は日本「社会」の後進国性をよく知っていた、それと気づかずにいたのは日本国民だけだったのではないでしょうか。

注意すべきはランキングが相対評価を表現している点。2006年以降諸外国が男女平等に向け努力を重ねる中、漫然とその日暮らしをしていた日本は80位から121位にランキングを落としてきています。世界の中で日本は「 #ジェンダー平等 」後進国と認識されてきていたのですが、内向きの、他国の社会をつぶさに見ることの少ない日本人にとって想定外の、「世界の常識」であることでしょう。

・日本のランキング推移
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(ジェンダーギャップの縮まらない日本に光明はあるのか?ジェンダーギャップ指数2019が発表 https://data.wingarc.com/gender-gap-index-2019-24763

しかもこのランクすら、「健康」で下駄を履いているといえる要素があります。

・各項目ごとの指数と順位

 

3.教育でも経済でも政治でも中東アフリカ諸国クラスの日本

教育(教育達成度)

読み書き能力、初等教育(小学校)、出生率の項目では、男女間に不平等は見られないという評価で昨年同様世界1位のランク。

しかし理系学部の女性が少ないため、大学院の就学率が低くなっています。この差が日本の順位を下げている要因の一つです。また難関大学で女子学生の比率が低い。世界のエリート大学は男女半々が普通なのに、東京大学の女子学生は2割ほどで頭打ちの状態です。女の子が東大を出ても、いわゆる「女性の幸せ」につながらないと思わせる社会構造があるのかもしれません。

・「教育」でのランキング
順位 国名   男女格差指数
 90 バーレーン 0.985
 91 日本    0.983
 92 サウジ   0.983

経済(ジェンダー間の経済的参加度および機会)

この項目では男女間の給与格差、管理職比率、専門職や技術職の労働者数などが調査されます。

政府が推進する女性活躍政策の影響で会社における女性管理職などが増えたこともあり、スコア自体は2006年の0.545から2019年0.598へと改善しています。していますが、要は諸外国はこの間、もっと改善に努めていたので、日本の綜合ランキングは落ちているのです。

・「経済」でのランキング
順位 国名   男女格差指数
114 ケニア    0.598
115 日本     0.598
116 モーリシャス 0.596

政治(政治的エンパワーメント)

ここが一番のウイークポイント。今回の森喜朗発言と組織委員会での「笑い」が問題視されているところと関係してきます。

安倍首相は2013年、社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%とするという「ウーマノミクス戦略」を提唱、「女性が輝く社会」を実現すると公約しました。しかし政治の世界ではそれっきり。事態はあまり改善していません。

女性が首相、総理になったことはなく、国会議員に占める女性比率が10%程度。また調査時に女性大臣が少ないなどが指数に大きく影響を与えています。

・「政治」でのランキング
順位 国名   男女格差指数
143 カタール   0.052
144 日本     0.049
145 イラン    0.037

 

4.今後招致国適性に「ジェンダー」要素が重視されると日本はアウト

ジェンダー格差が少ない1位から5位までの国名は、アイスランド、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、ニカラグア。その他、ドイツ10位、フランス15位、カナダ19位、英国21位、米国53位、イタリア76位で、日本はG7の中で圧倒的に最下位。中国は106位、韓国は108位で日本より上です。

・総合
順位 国名   男女格差指数
118 アンゴラ   0.660
119 ベナン    0.658
120 UAE     0.655
121 日本     0.652
122 クウェート  0.650
123 モルディブ  0.646

もし仮に今後オリンピック招致国適性として「ジェンダー」要素が重視されると、このままでは日本がアウトとなる可能性が高いのです。

夏季オリンピック      ランキング
2012年 ロンドン(イギリス) 21位
2016年 リオ(ブラジル)   92位
2020年 東京(日本)    121位
2024年 パリ(フランス)   15位

冬季オリンピック      ランキング
2014年 ソチ(ロシア)    81位
2018年 平昌(韓国)    108位
2022年 北京(中国)    106位
2026年 ミラノ(イタリア)  76位