■東京と大阪は何が違うのか 新型コロナ対策

第二波はピークアウトか 全国合算なら

東アジアをはじめいくつかの国で、新型コロナの感染状況について小休止の様相があるものの、世界全体で新規感染者数を合計すると、まだまだ「収束の兆しが見えない」というのが、現状です。全体の動静と地域ごとの情勢が必ずしも同じでないのも、この新型コロナの特性のよう。

それで、日本は?

日本の状況がトレンドとして悪化傾向にあると判断する国もあります。フィンランドが日本からの入国を8月24日から再び制限すると発表しています。日本感染症学会の舘田一博理事長も「まさに今、『第2波』のまっただ中にいる」と表明されているので、フィンランドのような国が出てくるのもやむを得ないでしょう。

ただ、現在感染者数の折れ線グラフを見ると、東京については感染拡大を免れつつあり、全国合算をするなら第二波ピークアウトの可能性もあります。8月10日をピークに以降、トレンドとして数値が下降傾向にあるからです。
・現在感染者数 推移 東京とそれ以外

現在感染者数 推移 8月20日

これは現在感染者数を追いかけることで見えてくるものです。たしかに8月20日の東京の「新規」感染者数は339でした。しかし、素のデータとして「新規感染者数」が重要だとしても、傾向、トレンドを追うには「現在感染者数」の方が適していると考えられます。

 


(詳しい解説は以下の記事をご覧になってください。
・東京都民のための【新型コロナ|5つの指標】 https://society-zero.com/chienotane/archives/8773
・菅官房長官をミスリードさせた「新規」感染者数 https://society-zero.com/chienotane/archives/8835#3
・東京と東京以外の自治体の比較 現在感染者数ベース https://society-zero.com/chienotane/archives/8877#3


他方、「全体の動静と地域ごとの情勢が必ずしも同じでないのも、この新型コロナの特性」とすると、東京以外の地域で米国やブラジルのように、感染爆発へ行くポテンシャルが懸念される地域があるでしょうか。

たとえば国内で重症数が急増して話題になっている地域があります。大坂府です。

 

大阪の重症者数急増が心配なわけ

・大阪の重症者数 推移

大阪の重症者数 推移

(なぜ重症者急増、対策は?大阪府の吉村知事に聞く  https://news.yahoo.co.jp/articles/1d98fefc0dc12aa602ff1e8deb1d70d945444e70 )

 

高齢者への感染拡大が死者増につながるのは、国内外の第1波の教訓から明らかです。

・年齢別致死率

(新型コロナ 第2波は重症者が少ないのか? https://mainichi.jp/premier/health/articles/20200814/med/00m/100/007000c

確かに新規感染者数の太宗が20代、30代の若い人で占められるのはその通りですが、大阪府知事が指摘している通り、「東京との比較で言うと、重症者の基準が大阪と東京で違っているが、それだけで理由の説明がつくものではない。大阪のほうが高齢者との距離が現役世代と近いというのも1つの理由」としたうえで、他に「高齢者は感染が分かった段階で重症の人がいる」とも述べています。

 

大阪と東京の何が違ったのか

1.ヒトが「運ぶ」(対応の違い):感染症は「移る」のが怖い病気。大阪の場合、自治体の施策として、7月中旬から経済重点の施策で、ヒトの「移動」を解放しました。これでヒトが「運び屋」になり「移る」ことによる感染拡大に拍車がかかったことが容易に想像されます。


「感染」と「運ぶ」を区別する理由 https://society-zero.com/chienotane/archives/8877#5


2.若い人から高齢者へ(構造の違い):家庭内感染の増加につながりました。

 

A:早目に手を打つ(移動制限をかける)

感染症対応は社会的隔離政策発動の、「スピードと果断さ」が重要だ、というのが世界の一致した認識です。早め早めにまず「移動」制限を打ち出すことが重要です。

歴史的な事実として、百年前のスペイン風のときの、米国各州ごとの対応の差をすでに、記事にしています。ヒトの移動を制限して、ウイルスが「移る(=感染)」ことを阻止できる。これをいかに素早くできるか、が勝負です。
躊躇したフィラデルフィアは、先手のセントルイス比、死者が多かった

(感染症が発生した場合、国や都道府県はどう行動したらよいのか https://society-zero.com/chienotane/archives/8467

この点、日本では7月22日の『GoToトラベル』キャンペーン時、各自治体で対応が分かれました。大阪府知事は経済優先に大きく舵を切る側の急先鋒でした。第二波が始まっていたかもしれない段階で、「早めの手」を打つことを躊躇しました。東京は7月中旬から一貫して慎重姿勢を崩してこなかった、のに、です。『GoToトラベル』とその2週間後の対比が、東京と東京以外の違いを明らかにしました。

・『GoToトラベル』とその2週間後、東京

・『GoToトラベル』とその2週間後、東京以外

無論国や自治体の対応以外に、国民の行動変容がもうひとつ重要なポイントです。この点で明らかに、「GoTO」の次のイベント、お盆の時期については、大阪府民を含む国民による自粛があり、それが功を奏し、上述国全体の合計数値で、「ピークアウト」かと見れるような結果を産んでいます。
都市ごとのヒトの動き:東京や大阪がお盆休みで減

ヒトの動き 東京と大阪

(経済チャートで見る 新型コロナショック:日本経済新聞 https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-economy/
お盆時期の各交通機関

(お盆休み、そろりスタート | 話題 | カナロコ by 神奈川新聞 https://www.kanaloco.jp/article/entry-435627.html

上述のごとく国全体は、国民の意識の高さから、ピークアウトの様相を呈し始めています。しかし大阪は違ったのです。

対面での飲食、おしゃべりが感染につながりやすいことがわかってきました。この点、「飲食」面での行動変容の幅が、経済優先を知事が謳った大阪では、ウイルスにとって東京比、行動量の減少が小さかったかもしれません。
飲食店への人への出入り

飲食店の出入り

(経済チャートで見る 新型コロナショック:日本経済新聞 https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-economy/

 

・現在感染者数 東京と大阪

現在感染者数 東京と大阪

 

そしてもうひとつ、大阪独自の、あるいは東京と異なる要因がありそうです。大阪府知事が指摘した、

・現役世代と高齢者との距離の近さと、
・高齢者が病院に行きたがらない(そのため、高齢者は感染が分かった段階で重症化している)

というポイントです。

 

世帯構造と高齢者の行動

感染症の病原体(ウイルス)にとって感染していきやすい場所とそうでない場所とがあります。

人間の集団の単位が小さく、集団同士の距離が遠い、「疎」な場所だとウイルスは伝搬、感染していく自らの生存戦略が潰えて、消滅していくことになります。

他方、いわゆる「」な状態があり、かつその「密」に行動範囲の広い若い人と、重症化しやすい高齢者が同居していると、外で無自覚・無症状のうちにウイルスに感染した若い人から、家の中で高齢者へウイルスが伝搬・感染していく好都合な感染の環がそこにあることになります。家庭内感染の温床。

大阪府医師会の茂松茂人会長は(大阪の)死者の増加について「高齢者の感染増が背景にある」と指摘。日経新聞も裏付けデータを添えた記事にしています。

「大阪は東京より単身世帯が少ない。まず若者世代に感染が広がり、家庭内で中高年に感染した例が多いのでは」とみる。2015年の国勢調査によると大阪の単身世帯の割合は16%で東京の23%を下回る。
(新型コロナ:コロナ死者数、増加の兆し 高齢者への感染が影響か https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62730820X10C20A8EA1000/

ただ「単身世帯」といっても、若い人の単身世帯だけでなく、高齢者の単身世帯もあります。問題の核心は高齢者と同居している家族・世帯の割合です。

政府統計「グラフでみる 世帯の状況(平成30年)」には、「都道府県別にみた子との同別居状況別65歳以上の者の数の構成割合」という統計があります。これによると、

・「子と同居」の割合
東京:31.0%
大阪:33.9%

です。あまり違いはなさそう。

他方知事が指摘していた、「高齢者が病院に行きたがらない(そのため、高齢者は感染が分かった段階で重症化している)」については、傍証になりますが、同じ資料に「健康診断」に関するデータがあります。

・都道府県別にみた40~74歳の健診を受診した割合
東京:74.7%
大阪:65.7%

これはだいぶ違いそう、ですね。

大阪府知事は

「なんらかの症状が出た場合にはできるだけ早めの受診をお願いする」
(コロナ重症者数が増加傾向 大阪は東京の2倍以上 その理由とは https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200818/amp/k10012572621000.html

と述べ、高齢者に対し症状が出た場合は、早めに検査を受けるよう呼びかけていく考えを示しています。

 

まとめよう。

若い人も含め新規感染者の発生を抑え、高齢者と若い人の接触頻度を押さえるよう、自治体が主導すべき。それも早めに。

それが、重症者数増大の抑制策であり、ひいては医療崩壊の防止策につながる。医療体制が堅持され、感染症対応がなされていることが、経済活動再強化のための前提条件であり、経済活性化のためにも感染抑止に自治体は知恵を絞るべきだ。

「今後、さらに重症者が増えると、医療機関として新型コロナ患者の対応で手いっぱいになってしまって、コロナ以外の病気の患者を診る余裕がなくなってくる事態も考えられます。医療体制を維持すためにも重症者を減らす。そのためには新規感染者の数を減らすことが重要になってきます(国立国際医療研究センターの忽那賢志氏)」
(コロナ重症者“急増”医療現場は…最前線医師に聞く https://news.yahoo.co.jp/articles/b679a6f9aa80b6d660b3be8adf160850e6164117

・対策病床使用率 8月19日 沖縄は危険/大阪、福岡が逼迫目前

対策病床使用率

(COVID-19 Japan - 新型コロナウイルス対策ダッシュボード #StopCOVID19JP https://www.stopcovid19.jp/


◎コロナ関連でよく読まれる記事

・ヒトが病原体を「感染症」の犯人にした https://society-zero.com/chienotane/archives/8908
・コロナ禍の中で「読書」、メディア、出版産業の危機は深まるか https://society-zero.com/chienotane/archives/8579
・「コロナ後のニューノーマルへの備え」と「社会の危機を変化の入口に」 https://society-zero.com/chienotane/archives/8534


 

■関連URL

●グラフで見る! 日本の人口の推移(2000年-2045年 https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010050000001000000/1
◎単身世帯数
・大阪府の単身世帯割合は37.5% 2015年

(グラフで見る! 大阪府の世帯数とその構成 https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010050000001027000/13
・東京都の単身世帯割合は47.3% 2015年

(グラフで見る! 東京都の世帯数とその構成 https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010050000001013000/13)

●政府統計「グラフでみる 世帯の状況(平成30年)」 国民生活基礎調査(平成28年)の結果から
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h28.pdf

高齢者の「子との同居」割合 都道府県別

 

●日本からの入国を再制限 フィンランド
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO62826330Z10C20A8000000
日本からの入国を24日から再び制限すると発表した。日本の感染状況が悪化していると判断したとみられる。

●コロナ重症者“急増”医療現場は…最前線医師に聞く https://news.yahoo.co.jp/articles/b679a6f9aa80b6d660b3be8adf160850e6164117
「『GoToトラベル』キャンペーン以降に、大阪府と沖縄県は急激に増えています。」

●感染症学会理事長「今まさに第2波のまっただ中」…再生相「政府としての定義ないhttps://www.yomiuri.co.jp/national/20200819-OYT1T50235/
感染症抑制策が経済再強化の前提であることを理解しようとしない政府の行動には今後とも期待はできない。

●帰りたい、でもうつしたくない…8割が帰省「断念」 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/633382/
「安倍晋三首相は6日、全国的に感染が拡大する中でも帰省自粛を求めなかった。「国民に判断を丸投げしているようだ」と釈然としない。」
・帰省断念

●伊の感染拡大、高齢の親と同居多いから?…独の教授ら分析 https://www.google.co.jp/amp/s/www.yomiuri.co.jp/world/20200318-OYT1T50296/amp/

●日本のリーダーたちが学ぶべき新型コロナウイルスの将来見通し(ハーバード報告の紹介https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0590.html

●介護施設で感染拡大しない理由 | 日本医師会 COVID-19有識者会議 https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/3430