■2020年4月、非正規97万人減少 休業者数は597万人

コロナ前、日本企業社会において4月までに準備しなくてはいけない大きな経営課題のひとつに「同一労働同一賃金」の導入がありました。ところが「同一賃金」の導入適用以前の問題として、雇用契約の破棄がコロナ禍で持ち上がってしまいました。期待値が高かっただけにその影響は減少人数の数値以上のマグニチュードがありそうです。

非正規労働者97万人減少

総務省が4月29日発表した「2020年4月の労働力調査」によると、パートやアルバイトなど非正規労働者は2019万人となり、前年同月比で97万人の減少となりましたた。これは比較可能な2014年1月以降で、過去最大の下落幅となりました。

4月といえば新規採用の月、正規の職員・従業者は63万人の増加。これに対し、非正規が97万人減少、さらに自営・家族従業者の減少が32万人。結果、4月の全体の就業者数は前年同月比80万人減の6628万人で、7年4カ月ぶりの減少となりました。新型コロナウイルス感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言発令の影響で雇用情勢が大きく悪化している実態が浮き彫りとなっています。

(雇用関連統計20年4月-失業率の悪化は小幅も、失業予備軍の休業者が急増  https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64565

 

「就業者」とは

そもそも「就労者」とはどういうカテゴリーなのか、あらためて確認しておきましょう。結構細かい規定があるので、ここではややざっくりした説明をしておきます。

まず

就業者=従業者 + 休業者(※1)

です。

・休業者も含むカテゴリー
・従業者=収入を伴う仕事を少しでも(1時間以上)した者
個人経営の商店や農家で家業を手伝っている家族は、仮に無給でも仕事をしたとされる(このような者は「無給の家族従業者」という)。
・休業者=雇われている人のうちで、仕事を持っていながら調査週間中に病気や休暇などのため仕事をしなかった者 + 自営業主(その仕事が自分で事業を経営して行う仕事である場合)で、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者

同時に就業者は、「自営業主」、「家族従業者」、「雇用者」という下位のカテゴリーにも分類されます。つまり、

就業者=自営業主 + 家族従業者 + 雇用者

です。

ここで「雇用者」とは、雇われている人。雇用契約に基づき雇われ、給料、賃金を得ている者。

・その中に正規・非正規の別がある。
・非正規は「パート」、「アルバイト」、「労働者派遣事業所の派遣社員」、「契約社員・嘱託」、「その他」で構成されます。

だから最終、

就業者=自営業主 + 家族従業者 + 正規雇用者 + 非正規雇用者

となりますね。

2020年4月時点、役員を除く雇用者数は5,582万人。このうち非正規は2019万人。実に構成比36%、となります。

※1 休業者の数も尋常ではない。4月の休業者数は597万人で、前年同月比で420万人増えた。この597万人は、比較可能な1967年12月以来で過去最大、だが平時であまり注目されない数値でもある。しかし現在はコロナ禍の最中。仮にこの人達がリストラされれば、一気に完全失業者数は775万人となり愛知県の総人口736万人を上回る。

 

テレワークにも入れてもらえない

この最後に位置する非正規雇用者に対し、政府は2020年4月から「同一労働同一賃金」の制度を適用するよう企業に求めていました。

同一労働同一賃金とは、同じ仕事に就いている限り、正社員であるか、非正社員であるかを問わず、同一の賃金を支給するという考え方です。この「同一」には賃金だけでなく、様々な処遇を同一とすることが盛り込まれいてます。

(<どうなる格差 同一労働同一賃金>在宅勤務 派遣はダメ? 仕組み導入 正社員に後れ https://www.tokyo-np.co.jp/amp/article/11715

コロナ禍発生の前にとり決められた「同一労働同一賃金」制度ですので、テレワークについての規定は当然にはありません。しかし制度の精神からいえば当然含まれなければなりません。

 

オン・ザ・ジョブ・トレーニング(On the Job Training )

そもそもさまざまな処遇にはたとえば教育の機会があります。会社を経営する側、賃金を支払う側にとって「同一労働」に対し「同一賃金」が払うことへの納得性は、あくまで仕事の結果が同じであることが担保されていることから産まれます。ただし仕事の結果が違うことを理由に賃金に差をつけるのであれば、そもそも同一労働同一賃金の前提として、当該仕事内容に対し、同じ教育機会が与えられていることがなければなりません。

教育には研修のようなオフ・ザ・ジョブ・トレーニング(Off the Job Training )以外に、仕事をしながらの教育・研修の機会(オン・ザ・ジョブ・トレーニング(On the Job Training ))がなければなりません。

厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」によると、非正規雇用労働者における待遇の改善内容としては、「教育訓練や研修の機会」も対象となっています。当然ですね。

非正規雇用労働者に対しても正規雇用労働者と同様の教育訓練や研修を実施すれば、社員全体で能力やスキルを向上させられます。その結果、企業の生産性と業績の向上にもつながるでしょう。

ちなみに、日本が個別企業に対し教育訓練の機会までも含めた「統一労働同一賃金」の制度内容を義務として背負わせるのに対し、海外では産業別の制度が充実していて個別企業がすべての負担を背負うのでない点に特徴があります。
海外ではたとえばEUの中でドイツやフランスでは産業別労働協約によって、職種や技能レベルに応じて賃金が決まりますが、その技能レベルの基準設定、個人向けの判定は産業別機関により行われます。※2

※2 諸外国の”qualification”(資格)は日本の「資格」よりは幅広い概念であり、日本における、法令等に基づく国家資格(技能検定を含む)はもとより、国等が認定した審査基準を基に民間団体や公益法人が実施する公的資格、職業能力評価基準、ジョブカード、その他学士・修士・博士号まで含まれる、広範な「能力評価制度」と考えていいだろう。
(諸外国における能力評価制度―英・仏・独・米・中・韓・EUに関する調査 https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2012/documents/0102.pdf


■関連URL

・需要蒸発でモノとサービスの供給体制が瓦解する「倒産爆発」へ | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/8546

・労働力調査 2020年4月 https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/gaiyou.pdf

・新型コロナ:正規と非正規の待遇差、新型コロナで顕在化 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59629720X20C20A5000000/
「4月から適用が始まった正規と非正規の労働者の待遇差を解消する「同一労働同一賃金」に抵触しかねない例が相次いでいる。非正規にのみにテレワークや時差通勤を認めない例もある。」

・同一労働同一賃金ガイドラインhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html

・2020年に改正される同一労働同一賃金を徹底解説! https://www.neo-career.co.jp/humanresource/knowhow/c-content-parttime-douitutinkinn-190604/

・街の図書館が「6割非正規頼み」の厳しい現実  https://toyokeizai.net/articles/-/260901