●書籍は「本」の劣化版 「本」を再定義しよう

国際アンデルセン賞を受賞した『魔女の宅急便』の角野栄子さんが受賞スピーチで次のように語った。物語、言葉は「体験」とともにある、と。すなわち個々人の異なる、それまでの人生、生活環境、聴いた・読んだ時の「いま(あの時)」、それらとともある「体験」こそに「価値」がある、と。

「物語は、私が書いたものであっても、読んだ瞬間から、読んだ人の物語になっていく。(略)
 そして、その時、感銘を受けた言葉、その時の空気、その時の気持ち、想像力などが、一緒になって、その人の体のなかに重なるように入っていき、それが、その人の言葉の辞書になっていく。」

その体験こそが、ある意味、「」なのだ、と「天狼院書店」の三浦崇典代表も言う。この一点に立って「本」を再定義すべきだとも。そしてその観点からは、「書籍は「本」の劣化版」なのだ、ということにもなっていく。

さらにデジタル時代に突入した21世紀を俯瞰してケビン・ケリーも言っている。「本とは注意をひく単位なのだ」。

われわれは本をビットやある部分といった構成要素にアンバンドルしてそれらを編んでウェブにしていくが、本が持つより高次の力とは、われわれの注意をひくことだーそれこそが、この経済のおいていまでも希少なものだ。本とは注意をひく単位なのだ。事実は興味深く、アイデアも重要だが、唯一人々を楽しませ、忘れられることがないものは物語や素晴らしい論議、それによくできたお話だ。(強調は筆者)(『<インターネットの次>に来るもの』 第4章 Screening)
(ケヴィン・ケリーが語る「本と読書と出版」 その6 | ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/7851 )


●戦争、生きる勇気くれた「物語」 「魔女の宅急便」角野さんに「児童文学ノーベル賞」 - 共同通信 https://this.kiji.is/409205317068620897
「一つのオノマトペが、その語感、リズム、音の響きから、どれほど多くのことを伝えてくれることでしょうか。(略)
子どもの時、父はオノマトペや独自の表現を生み出して、子どもたちに語る物語をいっそう楽しいものにしてくれました。私は、それらの言葉に誘われて、物語に入り込み、元気な子どもになったり、主人公と一緒に問題を解決しようとしたり、さまざまな世界へと想像を巡らしました。私の物語との出会いは、ここから出発したのです。」

※「エイコ、あんたにもコラソン、心臓があるでしょ、とくとく とくとくと動いているでしょ。それを聞きながら踊れば、踊れるよ。だって、人間はそんなふうにできているのだから」
「言葉って、少ししか知らなくても、ぴったりのリズムや響きがあれば、不思議なほど相手に伝わる、また忘れられないものになる。それまで言葉の意味ばかり追いかけていた私に、ルイジンニョ(※)は、言葉の持つ不思議と奥深さを気づかせてくれたのです。」

物語は、私が書いたものであっても、読んだ瞬間から、読んだ人の物語になっていく。読んだ人一人一人の物語になって生き続ける。そこが物語の素晴らしいところだと思います。
そして、その時、感銘を受けた言葉、その時の空気、その時の気持ち、想像力などが、一緒になって、その人の体のなかに重なるように入っていき、それが、その人の言葉の辞書になっていく。
その辞書から、人が与えられた大きな力、想像力が生まれ、そして創造する力のもとになっていくと思っています。それはその人の世界を広げ、つらいときにも励まし助けてくれるでしょう。」

●「書店は、余裕で生き残れる」:日経ビジネスオンライン https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/082900607/
有益な情報はすべて『本』なのだと再定義した。たとえば『論語』の場合も、文章になる以前に孔子が考え、弟子に直接話した内容がそもそもあったはず。それも本のあり方のひとつ。必ずしも書籍である必要はない。お客さんが、情報に触れるメディアを自分で選べばいい」(三浦代表)


自らコンテンツ(体験)をつくれる書店、というコンセプト。:「天狼院書店が開催するイベントは、「学び」をテーマとしたものが多い。ものを学ぶ手段は書籍だけではない。人に直接教わる体験も書店の商品だというわけだ。」

●「映像や音声がないというのは、本の機能であり、欠陥ではない」| ちえのたね|詩想舎 https://society-zero.com/chienotane/archives/5268
「「VRデバイスが、ユーザーの脳を包みこんで別の世界を映し出す一方、本は読者の脳を働かせ、彼らと本の創造的なやりとりを通して、違う世界を映し出している」。つまり、「映像や音声がないというのは、本の機能であり、欠陥ではない」のだ。」

●天狼院書店 | TENRO-IN http://tenro-in.com/
「天狼院書店が提供するのは、「READING LIFE」という新しいライフスタイル。
「本」だけでなく、その先にある「体験」までを提供する次世代型書店です。」

●「遊牧民戦略でいく」 出版不況を快進撃、天狼院書店の秘密 | カンパネラ https://business.nikkeibp.co.jp/atclcmp/15/010700011/052300017/
「本の再定義をしたいんです。論語の内容を理解するために一番いいのは、孔子から直接、聞くことです。でも、それができないから、仕方なく本の形になった論語を読んでいるわけです。直接、先生から聞けないという意味で、(書籍は)「本」の劣化版なのです。それが本の前提です。

ただし本は時代を越えることも、海を渡ることもできる。こんな便利なものはないのです。だから「本」は動画だろうが音声だろうが、どんな形だっていいと思います。もちろん、情報量が多いのはやっぱり生(なま)で話を聞くことでしょう。直接会うという形態の「本」です。今は動画も配信できますよね。一番いいのは、本人が語りかける動画。僕にとってはそれも「本」です」。

●真の読書体験を得るための行為「マージナリア」とは? - GIGAZINE https://gigazine.net/news/20180905-pencil-reading/
「情報というのはさまざまなフォーマットになる。単なるリンクだけではない。そのうえで、情報がグーグルではないほかのエコシステムから来るものであれば、そうしたエコシステムを支援する責務がある。共生する関係にあるからだ。すべてのユーザーをグーグルに来させて、そこからどこにも行かせないというのは、われわれの意図するところではない。

たとえばグーグルはニュースサイトにお金を払うべきだという批判をよく聞くと思うが、サイト側がグーグルから得ているトラフィック(ユーザーの訪問・閲覧)がどれほどのものか、(グーグルがなければ)そのトラフィックを得るためのコストがどれほど抑えられたかということは聞かないだろう。昔だったら、莫大な宣伝コストがかかっていたはずだ。サイトの所有者たちがこのエコシステムの中で成功すると確かに感じてくれるようにしていきたい。」

●すべての本棚を「本屋さん」に – Librize – Medium https://medium.com/librize/%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%A6%E3%81%AE%E6%9C%AC%E6%A3%9A%E3%82%92-%E6%9C%AC%E5%B1%8B%E3%81%95%E3%82%93-%E3%81%AB-67936079cfc3
購入がゴールではなく、購入からスタートする本屋さん。

Point:(「本や」なのに、オンラインで注文/)決まった曜日にしか届かない。
「便利を追求するだけだったら、Amazon.co.jpで間に合っています。そうではなくて、僕らがやりたいのは「買った後のストーリー」を濃くすること。だったら、不便さこそ追求するべきです。」

「毎日届くなら「いつ行ってもよい(行かなくても良い)」ですが、水曜しか届かないなら「水曜に行こう!」になります。水曜日に、本好きが集まってくるかどうか、それがうちにとっての生命線になると思うのです。」

●『選択』(8月号)が「滅びゆく『大学出版会』」という記事を発信し、次のように始めている。 出版状況クロニクル124(2018年8月1日~8月31日) - 出版・読書メモランダム http://odamitsuo.hatenablog.com/entry/2018/09/01/000000
東京大学出版会、慶應義塾大学出版会などトップ大学の出版会すら経営は実質赤字。経営破綻し、民間の出版社に業務を丸投げした名門大学の出版会もある。学術的価値よりも「売れる本」づくりに走る出版会も多く、肝心の学術書は科研費や研究者の自己負担でようやく日の目をみる、といった状況だ。日本語で書かれた学術書は世界に市場を持たないという事情はあるにせよ、大学出版会の惨状は日本の「知の衰退」そのものを映し出しているようだ。」

 

 

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