注意したいこと|「読み放題モデルってどうなのよ」手元メモ その1

 

「読み放題モデルってどうなのよ」

1.注意したいこと
・出版業界にはふたつの異なる世界がある
・ジャンルの違い

2.Baasあるいは「出版」からの解放
・Baas(Books as a service)
・「出版」からの解放

3.読み放題ってそもそも何なのだろう
・「所有」から「利用」へ
・紙媒体からデジタル・データ表示媒体(デジタルメディア)へ

4.電子図書館と「読み放題」
・電子図書館は単品・買い切り/売り切り、その代わり同時アクセス1
・「読み放題」の仕入れ価格体系は企業秘密


昨年度から、「版元大集合…この先10年の出版を語ろう!茶話会」を企画、運営してきたJEPA(日本電子出版協会)のビジネス委員会が6月20日、2018年度版をスタートさせる。

今回のテーマは、「読み放題モデルってどうなのよ」。原則JEPA会員だけの会合だ。

・6月20日 「この先10年の出版を語ろう! 茶話会2.0」 https://kokucheese.com/event/index/523122/

いい機会なので、自分用の手元メモを整理してみた。

まずは、出版・本・読書の議論で注意したいこと

1.出版業界にはふたつの異なる世界がある

出版・本・読書に関する議論を展開するとき、初版数万部の世界の話なのか、初版数千部の世界の話なのか、最初にお互いが確認しあうことが大事だ。小説や漫画など、初版数万部の世界と、専門書などの初版数千部(近年は「千部前後」が実勢か)の世界とでは、商習慣、マーケティング発想がまるで違うからだ。

マスに訴える傾向が強い小説、漫画と、作品と読者のマッチングが重要な専門書とで、本の企画段階の発想、販売戦略はおのずと異なる。

一番わかりやすいのは、(日本では再販制度から実現はできないが、それがない米国等で普通に行われる)価格政策だろう。小説、漫画は価格を低く設定することで、「潜在読者」を掘り起こせる可能性がある。対して、学校の物理の先生に、日本史の事典を半額にしますから買いませんかと言っても買ってはくれない(=マッチングがまずは大事)。

そしてこの「初版部数」の違いからくる世界観の違いは、ほぼ「楽しむ読書」と「知る読書」に対応するだろう。が例えば、では、ビジネス書、ノウハウ本はどうなるのか、などそれほど単純に割り切れるものでもない。グラデーションがある。

いずれにせよ、潜在読者の掘り起こしとマッチングはむろん、コインの裏・表(ちなみに読者目線では「発見可能性」)という側面があるが、ふたつの異なる世界を意識することでより明確な視座の違いとして「読み放題」の議論の整理につながっていくだろう。

 

2.ジャンルの違い

さらにはジャンルにも気をつけたい。出版、書籍のジャンルは小説、漫画、専門書、ビジネス書、ノウハウ本だけに収まるわけではない。

料理本、図鑑、写真集、旅行ガイド、絵本、児童書、自己啓発本、語学、資格本、などなど。

今年にはいってからのJEPAセミナーだけでも、さまざまなジャンルの話が聴けたが、いずれも独自の生態系を形作っているのがわかる。

・趣味系コンテンツは宝の山!専門出版社に見るデジタル戦略事例
電子出版アワード受賞! 「図鑑.jp」と「ヤマケイオンライン」
http://www.jepa.or.jp/sem/20180410/

・スマホ発のマンガ家支援体制とマンガアプリGANMA!のビジネスモデル
(日本の電子出版の8割はコミック、その一翼を担うGANMA!のご紹介)
http://www.jepa.or.jp/sem/20180326/

・電子出版アワード大賞『絵本ナビ』 無料で全頁読めるビジネスモデル
http://www.jepa.or.jp/sem/20180315/

たとえば絵本ジャンルでの「読み放題」の先駆者、『絵本ナビ』では次のような、絵本ならではの独特の生態系の中で「読み放題」が構想、具体化されていった。

「潜在読者」の掘り起こしには、スマホのタイムラインへ絵本情報が載らなければならない。

そして「情報」というとき、絵本の場合、他の書籍ジャンルと異なるのが「全文」でなくてはならず、いわゆる書誌情報だけではダメだという点。「絵本は中身を読まずに買わないもの」だから、そして「子供連れのお母さんは書店で絵本に全部目を通すことができない」から。

さらに子供が面白いと思うかどうかは実に様々で、ここではランキング主義が通用しない。「人気作家の作品だからいいと思ったのに、子どもがちっとも興味を示さない」といった失敗を避けるには、「全文」が「オープン」になる必要がある。

逆に、「全文」をデジタル化して見せてしまっても売り上げ減少にならないのは、「子供と一緒に何度も読むものだから」。
(世界に変化を望むなら、自らがその変化になりなさい【セミナー備忘録】 http://society-zero.com/chienotane/archives/7691 )

株式会社絵本ナビ 代表取締役社長金柿 秀幸 氏はまず、

無料・読み放題で紙の絵本の売り上げを伸ばしてみせ
・次に、有料の絵本・読み放題へ
・さらに、「学習マンガ」の読み放題サービスへ

展開していった。

ジャンルごとの生態系をしっかり把握し、そのうえに、デジタル化を通した潜在読者の掘り起こしとマッチングを実現した好事例といえる。(詳しくは、世界に変化を望むなら、自らがその変化になりなさい【セミナー備忘録】  http://society-zero.com/chienotane/archives/7691 )。


◎「読み放題モデルってどうなのよ」手元メモ

その1:注意したいこと http://society-zero.com/chienotane/archives/7720

その2:Baasあるいは「出版」からの解放 http://society-zero.com/chienotane/archives/7732

その3:読み放題ってそもそも何なのだろう http://society-zero.com/chienotane/archives/7742

その4 :電子図書館と「読み放題」 http://society-zero.com/chienotane/archives/7757