教育ICT:イギリス最新動向 2017【セミナー備忘録】

(個人用のメモです。議事録ではありません。とりわけ[ ]の部分はブログ記事筆者の挿入部分です。図画等は特に断りがなければ講演者のプレゼン資料を利用しています。)

■セミナー概要:

教育ICT:イギリス最新動向 2017 http://www.jepa.or.jp/sem/20170223/

日本教育情報化振興会 (JAPET&CEC) の海外調査部会では、昨年度のアメリカ合衆国の訪問調査に続き、今年度はイングランドを対象として、教育におけるテクノロジー活用の状況を調査しています。

講師 石坂芳実 (いしざか よしみ) 氏
・ICT CONNECT 21事務局 技術標準化WG担当
・プレゼン資料:イングランドの教育におけるICTの活用 https://www.slideshare.net/JEPAslide/ict-72447552
講師 中駄康博(なかだ やすひろ)氏
・富士ソフト株式会社 みらいスクール事業部 次長
・日本教育情報化振興会 (JAPET&CEC) 海外調査部会 部会長
・プレゼン資料:JAPET英国訪問調査報告 https://www.slideshare.net/JEPAslide/japet

日時:2月23日(木) 15:00-17:30(14:30受付開始)
会場:飯田橋 研究社英語センター B2F 大会議室
主催:日本電子出版協会(JEPA)

◎本ブログ記事では、当日セミナーのうち、前半を扱っています。

前半:
英国の教育制度 (中駄康博)
カリキュラム改定ーICTからComputational Thinkingへ (中駄康博)
小学校におけるデータ活用 とRAISEonline (石坂芳実)
後半:
CAS(Computing At School)とComputational Thinking (中駄康博)
ロンドンの学校の状況 (中駄康博)
Betttのレポート (中駄康博)
イギリスのComputingの授業と Computing At School (石坂芳実)

1.英国の教育制度

・英国の正式名称は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)。つまり多様な来歴を有する地域の連合体。当然、地域ごとに事情が異なる。たとえば国全体での人種構成は白人92%だが、ロンドンだと、白人60%、アフリカ系7%、インド系7%(2011年)となる。教育行政もこれらの実態、多様性を前提に構築されている。

・教育行政が考慮すべき多様性項目は人種に限らない。性別、特別な支援を受けているかどうか、給食補助を受けているかどうか、母国語、転校、人種、誕生月、保護の経験、居住地域の貧困度の8つのファクター。人種では均一性が高い日本だが、他の項目における多様性は日本も同じ。多様性を前提にした教育行政の在り方(後述)は参考になる。

・学校体系の日本との違い:

①学期は9月はじまり。
②義務教育課程期間が2年長い。
卒業証書はない。その代わり、生徒は卒業試験、GCSE(General Certificate of Secondary Education)を受ける。
④ちなみに高校過程においても最後に試験があり、大学を受験するに足る学力を有しているかが試される(General Certificate of Education Advanced Level(GCE-Aレベル)資格。「Aレベル資格」という)。
[2016年3月31日、文部科学省は学校教育法施行規則の一部を改正、「大学入学に関し高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者を指定する件」について、このGCE-Aレベルを有するものとした]

・公立学校と私立学校の間に、公営独立学校という形態があり、現在英国政府はの最後の形態へシフトする方向で動いている。
公営独立学校とは資金面の負担は国が担うが、学校運営には口出しはしない、というタイプ。[このシフトの背景に、学校校務におけるICT活用が学校現場まできちんと普及し、かつICTサポート体制も十全になったとの判断があった模様=「3.教育行政・学校運営を支えるICT」参照]

・カリキュラムの大枠を決めるが「科目ごとの授業時間数」などの明示はない。
・その英国義務教育課程で2014年、大きな改定があり、それまでの「ICT」が「Computing」へ変更になり、また外国語もKS2~KS4へ増加した。

2.学校運営の仕組み

[・イギリスでは最良のカリキュラムは、学校において決められるという考え方を基本に据えていて、政府が決める「ナショナル・カリキュラム」がカバーする範囲は、教育現場で決める「学校カリキュラム」の約半分と言われる。

・「学校・教師に自由と自律性を与え、世界標準の教育」を目指すのが、教育行政の基本理念。

・上述の「公営独立学校(アカデミー)」形態はその最たるもので、公営の学校でありながら、地方当局の管理下から離れ、中央政府から直接補助金を得ることができるうえ、ナショナル・カリキュラムに従う必要すらない。]

・つまり、日本に比べて、学校長の権限が大きい。教科ごとの時間数、教え方、教材 • 教員を始めとするスタッフ(給与も)は現場の裁量に任される。
・政府は教育現場の活動をサポートする立場。ICTによる支援にも熱心。
・ただし結果責任には厳しい。

・その結果責任を監査する機関が教育水準局=オフステッド(Ofsted:the Office for Standards in Education, Children’s Services and Skills)。オフステッドは、英国全土に約1500人のスタッフを抱える独立した部署で、独立性や公平性を保つため、役所などを介さず、議会に直接レポートを届けることになっていて、レポートの結果はすべてネットで公開される。余談だが、校長の査定は公開されているので孟母三遷ではないが、(米国も)英国も学校を選別しての引っ越しが当たり前になっている。逆に名を馳せた校長は、その後コンサルタント会社を興してみたりも当たり前。

[・オフステッドの上級のスタッフ(Her Majesty's Inspector)は常勤職で、教育系機関、福祉系機関(児童養護関係の施設や少年院など)、生涯教育系機関(専門学校など)の3つの専門分野に分かれている。教育系の場合は、5年以上の教員管理職(校長、教頭など)の経験が必須で、経験に応じて監査のためのトレーニングを受ける。(About us - Ofsted - GOV.UK https://www.gov.uk/government/organisations/ofsted/about#what-we-do )]

・オフステッドは各学校長を4つの項目(生徒の達成度/教え方の質/制度の態度と安全/リーダーとマネージメント)/四段階(outstanding/good/requires improvement/inadequate)で評価する。

・この評価はただし、絶対評価でない点が重要。二年生が六年生までの間に、どれだけ生徒が伸びたかを査定する。また、この査定には、地域の事情(性別、特別な支援を受けているかどうか、給食補助を受けているかどうか、母国語、転校、人種、誕生月、保護の経験、居住地域の貧困度の8項目)を反映させる。
・Performance and Assessment Reportと呼ばれる報告書に記載されている「文脈上付加価値(Contextual Value Added)」がこれにあたる。
・だから校長は入り口で生徒を絞ることに腐心するのではなく、すべての生徒を無条件に受け入れたうえで、いかにその生徒の学力を伸ばすかに注力できることになる。

3.教育行政・学校運営を支えるICT

米国同様、説明責任、アカウンタビリティの土壌の上に、その負担をサポートする位置づけで教育現場へのICTが普及している点は共通。

①RAISEonline
・学校評価、学校改善をサポートするオンライン・サービス
・学校長は頻繁に利用するほか、学校シニアマネージメントチームが利用
・学校、教育委員会 (Local Authority)、検査 官 (Inspector)、学校改善パートナーにも同じ データや分析を提供
・生徒や保護者はアクセス権がない

・イングランド教育省 (DfE) とオフステッドの共同所有の形になっているが、実際 はRM Resultsという企業の製品 • 今年度で契約が切れるため、現在DfEが後継 システムを開発中

②MIS (Management Information System)
・生徒の属性情報や成績データなどを 管理するシステム
・アメリカで言うSIS (Student Information System)、日本で言う校務支援システムに相 当する
• 生徒の属性情報、成績、出席、時間割他
• 会計、文書管理も
• すべての教職員が日常的に利用
• 学校がCapitaと協力してアカウント (ID/パスワー ド) を発行
• 別売の、生徒用モジュール、保護者用モジュールを 使えば、必要な部分は生徒や保護者もアクセスで きるようになる

• データは、永続的に保存している模様
• USのSIS (Student Information System) は、 1学校1年でデータベースを再構築していたが、MISはローカルサーバーで動作するタイプと、クラウド上で動作するタイプの両方が存在する
• 現在は依然として稼働数はローカルサーバーの方が多いが、クラウドが増えつつある

4.相互運用性

・小学校における個人のデータは、中学校に行く段階で、中学校単位でデータを再編し、パッケージにして中学校へ送られる。それくらい、教育関連のシステムは相互運用を意識した作りになっている。
・しかし、それでもアメリカの方が進んでいる印象。たとえば、SIMSとLMS(学習管理システム:Learning Management System)や教材との各種コンテンツの間でのデータ連携は可能だが、Capita独自のAPIを、Capita に契約料を支払った上で利用しなければならない。

・転校時の生徒情報の転送や、新学期の生徒リストの一斉設定などの用途で、教育省 (DfE) がCTF (Common Transfer File) と 呼ばれるフォーマットを規定
• MISはこのフォーマットでデータをやり取り
• フォーマットの規定だけでなく、 Common Basic Data Set (CBDS) と呼ばれるボキャブラリも規定

5.学校向けサービスとネットワーク



・セキュリティについては日本と発想が異なると痛感。日本で個人情報等「漏れてはならない」と考え、「漏れ」防止にコストと手間をかけるのに対し、英国では、「漏れてもわかる」仕組みさえきちんとすれば、予防的に防げるし、漏れてもすぐに対応ができると考える。この方が、手間とコストは各段に安くなるだろうと感じた。

 

■関連URL
・第 3 章 イギリスの教育課程 3-1 イギリスの教育制度の概要
https://www.jica.go.jp/hiroba/teacher/report/prmiv10000002siq-att/comparative_survey01_03.pdf
・英国の学校改革GCSE、AS、A:levelについてhttps://www.britishcouncil.jp/sites/default/files/exm_uk_qualification_reforms_2016_jp_2016_booklet.pdf