1.言葉は文脈依存的
言葉とそれが指し示す対象とは必ずしも一対一対応していません。
私がたとえば「水!」と言った時、「水をください」「水をぶっかけてやれ」「煉ようかんじゃなくて水ようかんの方を」といった、シチュエーションごとの様々な違った意味を込めて使っています。
つまり言葉に絶対的な意味や使用法はないのだと言っていいでしょう。言葉は常に、文脈依存的です。
2.メンタルモデル
このことからこうも言えます。つまり文脈を共有する人同士の場合は理解が進む、ということです。
逆に、そうでない人同士の相互理解を遠ざけることもあるでしょう。
つまり言葉の中には、知らずのうちにその人間が生きる環境のメタファーが含まれて行くことになります。
『比喩と理解 (コレクション認知科学)』 山梨 正明
ソシュールは、言葉の生成過程と無意識の関係を分析し、こういった状況を「言葉は世界を分かつ(分節化)道具だ」と説明しました。(『人工知能と人工知性』知識カード26)
『言葉と無意識』 丸山 圭三郎
また認知心理学の領域では「メンタルモデル」という用語を準備しています。人間がある対象や環境を認識する際、「これはこういうものだろう」と心に思い浮かべるモデル、それはある種の固定観念であり、ある「見通し」のようなものです。
(『人工知能と商業デザイン』知識カード66)
ユーザーに親切な、使い勝手の良いサイトを作ろうと思えば、こういったメンタルモデルの知識が欠かせません。
『続・インタフェースデザインの心理学 ─ウェブやアプリに新たな視点をもたらす+100の指針』 Susan Weinschenk
『インタフェースデザインの実践教室 ―優れたユーザビリティを実現するアイデアとテクニック』 Susan Weinschenk
3.文章のわかりやすさ
さてそこで「書き物」の場合、書き手と読み手のメンタルモデルを刷り合わせることで、読み手に「わかりやすい」と感じてもらえる工夫を施すことができます。
書き手が自分の書いた文章に対し「これはわかりやすい文章がつくれたなあ」と思っていても、その「わかりやすさ」が書き手のメンタルモデルを前提にしていて、他方、読み手にそのメンタルモデルが共有されていない場合、読み手は「わかりにくい文章だなあ」との感想をもってしまいます。
そこで、章の頭に、章説明を設けることでメンタルモデルをあらかじめ提示しておくという方法が有効になってきます。
そうすれば、読み手はある程度書き手と同じ「見通し」を持ちながら、文章を読み進めていくことが可能になります。
実はアイカードブック(iCardbook)第一期6点のうち、人工知能関連の2点(※)については、専門性が高い、つまり書き手と読み手のメンタルモデルのずれが大きいと判断、章ごとに「章説明」の欄を設けるようにしました。
読者のみなさまからの感想をお聞きしたいところです。
※:『人工知能と商業デザイン』
『人工知能と人工知性』