NHK出版のEPUB電子出版戦略【セミナー備忘録】

(個人用のメモです。議事録ではありません。記事中の図画はプレゼン公開資料を使用しています))

■NHK出版のEPUB電子出版戦略 http://www.jepa.or.jp/sem/20150826/

□講師
アドビ システムズ マーケティング本部          岩本 崇 氏
ゲストスピーカー:
株式会社 NHK出版 デジタルセンター 担当部長      尾崎 圭 氏
株式会社 三陽社 メディア開発室テクニカルエキスパート  田嶋 淳 氏
株式会社 デザインスタジオドアーズ ディレクター     伊藤 真人 氏

□概要
日時:8月26日(水) 15:00-17:00
主催:日本電子出版協会(JEPA)

このセミナーは、ADOBE DPS活用事例紹介の三回目(一回目は小学館さん、二回目が日経BPさん)。

DPSはアドビの出版社向けソリューション・サービス。組版から電子書籍制作までを一貫してやれるもの。

NHK出版は一般的な単行本以外に、NHKの番組の教材(放送テキスト)も作っており、基本、電子と紙を同時に出す方針なので月平均20点前後の電子書籍作りをやっている。

これまではフィックス型EPUBが中心だったが、アドビのDPSの機能に感心して採用、リフロー型へさらに今回アプリ作りにも挑戦した。新味は、EPUBを作り、そのEPUBデータを使ってアプリを作った、という点。(DPSにそれを支援する機能がある)

このおかげで外部業者に組版データを渡してアプリを作らせるより(百万円越えが当たり前)、コスト的に安く、また早くできるとのことでした。

そもそも「EPUBでできないこと(インタラクティブ性など)を実現したい」、がアプリトライの動機。その様子を『みんなの楽しい英文法』で具体的に説明していただいた。 

1.紙から電子書籍(それもリフロー型)へ

実用書には読者の知識習得や技能習得の最終目的を効率よく達成してもらうための工夫が施されている。その工夫は紙面に盛り込まれているわけだが、紙の版面をそのまま表現するフィックス型電子書籍と異なり、リフロー型では、この工夫を表現するのにさまざまな制約が生じる。

制約を回避するのには3つの方向性がある。ひとつは電子書籍の構成要素である、HTMLとCSSで表現し直す方法。ふたつめは読み替える。最後は断念する。

大体のことは、版面を構造体として把握し、それをHTMLの階層構造で表現し(divタグ)、CSSでHTML記法効率化のための整理をすることで再現可能。


紙から電子へ アドビのDPSを使ってhttps://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/08/紙から電子へ アドビのDPSを使って-300x242.jpg 300w, https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/08/紙から電子へ アドビのDPSを使って-1024x827.jpg 1024w" sizes="(max-width: 1025px) 100vw, 1025px" />

また「見開き」で対訳を表現しているようなケースであれば、

「1対1対応」しているパラグラフに番号を付与して、
a.相互にジャンプさせたり、

b.交代で出現させる、

などの対応をとればよい。

しかし断念した「工夫」はなんとしても残念。

一方アプリにすれば表現は可能だ。むしろアプリでなら、紙で実現できなかったことも表現できる。そういうことでアプリ化が俎上にのぼった(きっかけは、紙版にあったイラスト90点を使って、英語音声がはいった副教材を作れないか、いやそれはむしろプロモ用のアニメ―ションにならないか、といった議論から始まった)。

 

2.EPUBデータからアプリをつくる

インタラクティブ性を付与したい。これがアプリ制作上の大きな動機。ただし前提条件としてDPSの機能を使って、電子書籍データからアプリを作る。この条件を呑んでくれたのが、株式会社デザインスタジオドアーズだった。

これで、電子版でできなかった紙版での工夫を再現したり、さらに拡張することができた。たとえば、
・チェックリスト

・ぱらぱらマンガ(紙のページの縁)
・逆引きインデックス
・章扉にある四コマ漫画を音声付ムービーに
・新しくミニクイズを作ったり、章の最後におさらいテストを入れたうえで、それを正解していくとボーナスイラストが見えてくる、といった新機能も付加

などなど。

そしてアイデアを出し合い、こういう新機能、新効果を追求し実装を行う上で、電子書籍データのHTMLにスクリプトを追加していくのがとても簡便な方法であるのを実感した(アドビのDPSを使った「電子書籍からアプリ」は極めて有効!)。

 

3.実用書の電子書籍化と「ガイド」

現在日本の電子書籍は日本電子書籍出版社協会が制定した「ガイド」に沿って作られることが多い。
●電書協 EPUB 3 制作ガイド http://ebpaj.jp/counsel/guide

ただ今回については、縷々上で書いてきたような「工夫」について「ガイド」を離れ、「構造と表示の分離」をかっちりやるアプローチや、タグ名の付け方をセマンティックにやることで対処した。

このガイドはもともといわゆる「文字物」、小説などのように、紙面のレイアウトが単純でもっぱら文字だけで構成されている書籍にはフィットする。

実用書も「ガイド」を出発点にして、それを修正しながら、「工夫」を表現していくこともできなくはない。

しかしそれをやると、HTMLの内容がいたずらに複雑になり、アイデアを出し合いながら、あれこれ行きつ戻りつが発生すると、修正作業がやっかい。「EPUBNCHECK」で確実に「エラー」が増える。

HTMLとCSSで表現し直す方法。読み替える方法。いずれも一旦「ガイド」を離れて発想し直した方がよい。とりわけ今回のように、後工程でコラボをするとなると、そのやりかたのほうがスムーズに事が運ぶ。

 

InDesignはもともとXMLやEPUB書き出しの機能を持っているが、ソフトを運用する側に構造化の意識がないと、できあがったDTPデータも構造化にほど遠いものになりがち。

EPUB電子書籍制作を担当した三陽社では、まず組版データのXML化から始め、XHTMLデータを生成、それを元にEPUBを作成した。このEPUBデータを元に、デザインスタジオドアーズがDPSを用いてインタラクティブアプリ化したのが、今回の『みんなの楽しい英文法』だった。

(2015年8月27日一部修正)


◇関連URL
プレゼン資料:
●NHK出版のEPUB電子出版戦略(NHK) http://www.slideshare.net/JEPAslide/nhkepubnhk
●NHK出版のEPUB電子出版戦略(三陽社) http://www.slideshare.net/JEPAslide/nhkepub
●「みんなの楽しい英文法」アプリ制作事例 http://www.slideshare.net/JEPAslide/ss-52071409
●印刷用 DTP データからの電子書籍制作 (株)三陽社 メディア開発室 テクニカルエキスパート 田嶋淳 http://www.slideshare.net/juntajima9/8-29-slidetajima

 

●小学館の電子雑誌戦略――Adobe DPS採用のワケ http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1311/28/news026.html
解析機能にほれ込んだ事例。
●JEPAセミナーリポート:小学館の電子雑誌戦略は順調? Adobe DPS活用の本音を明かす http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1502/18/news078.html
1年半使ってみての実践レポート。