ラーニング・アナリティックス(LA)|EdTechPedia

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ラーニング・アナリティックスとは

どういう「学び」が、学習の場で実際起きているのかを把握・分析する活動。そのために、学習履歴を学習者特性や学習環境のコンテキストとともに記述、そして分析していく。この活動の目的は、学習活動と学習環境をどうやって「最適化できるか」を検討、具体化することにある。略称LAがよく使われる(Learning Analytics)。

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教育の情報化(ICT)とラーニング・アナリティクス

情報化、デジタル化の対象となる教育領域については3つを区別することができる。すなわち、授業や学習をどう設計、運営、管理するか(【B:中流】)。教科書や教材をどう電子化するか(【A:川上】)。学習履歴をどう収集、分析し、役立てるか(【C:川下】)。

教育課程においては、A→B→Cという流れになる。しかし教育の情報化という観点からはこのうち、まずBが、LMS (Learning Management System)として遠隔授業、e-ラーニング・システムとともに一番最初に発達してきた。かなり長い実践の歴史があり、また理論的な深まり、ノウハウの蓄積もある。

つづいて、A。ここ4,5年ほどは電子教科書、電子教材をどう制作し、教室でまた家庭で使えるようにするかにフォーカスがあたる時期があった(現在でも進行中)。

そしてC、学習履歴をどう収集、分析し、役立てるか、ラーニング・アナリティックスの領域がここ1、2年俄然注目を浴び、実現のための規格化・標準化の議論も熱を帯び、学術研究が急速な広がりを見せている。

 

学習履歴データのデジタル化と多様化・多面化

どうやったら効率的な教育・学習ができるのかについては、長らくテスト結果の分析などに代表される研究が蓄積され、また活用もされてきた。しかし、学習の現場に使われる教科書・教材、またテストが紙である限り、それを収集し、分析し、ある目的に活用するには、データ化の時点で大変な労力と手間、コストがかかるためなかなか革新的な成果は生み出されず、熟練教師のノウハウとして暗黙知化されていた。

2000年前後インターネットの登場で、遠隔教育に対する投資と実践が積み上げられた。ネットを介することから、当然学習履歴もデジタルデータとして入手が可能。ここに、LMS (Learning Management System)隆盛の基礎が築かれたのだった。

次に2010年から現在にかけて、生徒が情報端末を持って教育を受ける、あるいは学習を行うという事象が始まりだした。

すると、単に、テスト結果等のデータのデジタル化だけでなく、教材アクセス、たとえば、いつ、誰が、どんなふうに教科書のページをめくったかがわかるようになった。また学習の傍らで、どんなレファレンスを参照したのか、場合によってはネット接続して、ネット上の資源を活用したのかなどがわかるようになった。

上記はログとして学習履歴が残っていくものだが、さらには、教育情報端末にカメラがつくようになると、学習者の表情がカメラに納められる。音声が記録できる、位置情報も取得できる(例:野外学習)といった、これまでとは全く違う種類のデータが入手可能となってきた(データの多様化・多面化)。

 

ラーニング・アナリティックスのパラダイムシフト

このことでラーニング・アナリティックスの世界にパラダイムシフトとでも呼ぶべき現象が起き、学術研究も熱を帯び、その研究を深め、さらには実務に生かすべく、「データ収集、データ整備、データ分析」のための標準化・規格化作業が世界的な競争状態ともなってきている。

まず分析の対象が、「不足している知識は何か」、「未達の単元は何か」を特定する、といった(粒度の細かい)レベルから、そもそも学習者のメタ認知スキルはどういうものなのか、といった(粒度の粗い)レベルまで広がってきた。

なぜそこまで広がってきたかというと、そういう分析を可能にするデータが集まり始めたからだ。

学習者一人一人が情報端末を持ち、その端末に装備されたカメラで学習時の、たとえば心拍数がデータとして採取できるようになった。するとどういう教え方をしたとき、またその学習内容がどういうレベルのものであったとき、教材の構成がどういうものであったときに、この学習者はストレスを感じたか。ストレスを感じたことと学習結果との間にどういう相関があるか。こういった分析が可能になる環境が整ってきた。

ひょっとすると学習結果は、実は学習者の学習スタイルとも関連しているかもしれない。たとえば教授法や、先生の態度が学習者の学習スタイルとフィットしていなかったせいだったかもしれない。

仮に学習結果が不芳であった場合も、単に怠慢であったとか、頭が悪いとかだけで決めつけてしまうのでなく、その学習者にフィットする、「最適」な教授スタイル、教材、教える順序というものが発見できるのかもしれないのだ。

 

学習履歴データの活用の広がり

もうひとつの変化として、「活用」面の広がり、その具体化の現実味、があげられる。ラーニング・アナリティックスのパラダイムシフトは、「評価」のパラダイム・シフトも同時に惹起。テスト結果を分析し、どう成績表に反映させ、教育効果をあげるかと言った、もっぱら「学習者」に向けた分析と報告だけでなくなってきている。

つまり、「先生」への評価。

確かにベテランで確立したメソッドを持っているのだろうが、それはあなたが目の前にしている生徒にフィットしたものですか。去年の教材は、去年の学級にはフィットしていたかもしれないが、今年担当した教室はだいぶ生徒の様子が違う。去年と違う教材、教授法で生徒たちにのぞまなくてはいけないのではないか。こういう今までとは違う、評価が先生に対して行われる未来が始まるのかもしれない。

先生への評価の累計は当然、学校のマネージメントの評価の仕方にも影響を与えるだろう。

 

ホットなLA規格化・標準化の動きと実践研究

ISO/IEC JTC 1/SC36

「オープン」がコモンセンス。「標準化」が合言葉の21世紀。情報技術 (IT) 分野でも標準化は重要なテーマ。この領域を司る機関がふたつある。国際標準化機構 (ISO) と国際電気標準会議 (IEC) 。このふたつの機関はかつて覇権争いをしていた時期もあったが1987年、両機関の間で話し合いが持たれ、JTC 1が設立された。

つまり、ISO/IEC JTC 1とは、国際標準化機構 (ISO) と国際電気標準会議 (IEC) の第一合同技術委員会 (Joint Technical Committee 1) のこと。

分野毎に37個のSubcommittee (SC) に分かれており、その中でSC36は「学習、教育、研修のための情報技術=Information technology for learning, education and training」を担当している。

このSC36で2015年6月、WG8が設立された。

WG8はラーニング・アナリティクス(Learning Analytics)のためのワーキンググループ。

EPUB3の活動でも活躍した、韓国のYong-Sang Cho氏が議長を務める。すでに、「systems governance for Learning Analyticsと、Data framework for Learning Analytics interoperabilityのふたつのStudy Groupが立ち上がっている。

 

学習分析学会

もっとも何をデータ項目として規格化・標準化するべきかは目的次第。他方目的はデータを使って何ができるかと関連している。つまり規格化・標準化といっても、どういうデータを取れば、どういう成果を期待できるかということと、実は両者が鶏と卵の関係にある。

この点で、学術研究の分野でも新しい動きが日本にある。

2015年5月、NPO法人 人材育成マネジメント研究会が改組される形で、学習分析学会が発足した。

ホームページ公開は8月という、できたてほやほやの学会。

ただ活動はスピーディーで、すでに2015年10月、e-Learning Award 2015 Forumとの共催で、「LAハッカソン」が計画されている。
●eラーニングアワード2015フォーラム http://www.elearningawards.jp/outline.html

 


(本記述は、セミナー「学習ビッグデータ分析(LA:Learning Analytics)最前線」における、上智大学 田村恭久先生のご講演内容をベースにしています。)
●セミナー概要: http://www.asuka-academy.com/seminar/20150729.html

註:“Learning analytics is the measurement, collection, analysis and reporting of data about learners and their contexts, for purposes of understanding and optimizing learning and the environments in which it occurs. “

Ferguson, R. (2012). Learning analytics: drivers, developments and challenges. International Journal of Technology Enhanced Learning, 4(5-6), 304-317. (LAK 2011)


◇関連URL
●「Learning Analytics(LA)の概況と最新動向の紹介」(セミナープレゼン資料)  http://asuka-academy.com/seminar/20150729_report.html

●デジタル空間に移行する大学教育 http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/56965/1/Funamori_infosta_65_06.pdf