●新しい物価体系への移行期と閉塞感を生きる日本の若者

 

■「新しい物価体系」への移行期

物価と金融政策を専門とする、渡辺努(東京大学大学院経済学研究科教授)氏は、現在の世界が「新しい物価体系」への移行期にある、と言っています(『世界インフレの謎』)。

足下のインフレ傾向を驚きをもってみている方も多いと思いますが、このインフレは氏に言わせると、3つの行動変容が引き起こした移行期に生じる事象で、「新しい物価体系」が確立されるまで、社会の異変は続くだろう。従来の経済学で解けない謎はのこされたままだ。そう主張します。


『世界インフレの謎』が説く3つの行動変容 | ちえのたね|詩想舎


それぞれの変容が顕在化したり、顕著になったりしたタイミングは必ずしも同時でないのですが、決してウクライナ侵攻(プーチンが始めた戦争)だけがその原因ではないのです。2008年のリーマンショック、2020年からのコロナ禍、そしてウクライナ侵攻、この3つの事件を契機に、世界で3つの行動変容が起きています。これまでの当たり前、慣行・ルールや、しばらくトレンドとなっていた発想が、がらりと大きく変わろうとしているのです。

1 消費者の行動変容(サービス消費からモノ消費への揺り戻し)
2 労働者の行動変容(従来型の「働き方」から脱出)
3 企業経営者の変容(グローバル供給網の見直し)(簡単な紹介はこちらの記事で)

もちろん時間が経ち元に戻ることもあるでしょう。また国や社会ごとに違いもあることでしょう。たとえば、テレワークに対し揺り戻しがある日本に対し、「職場を離れる」のは米国で価値観の変容を伴う行動変容であって、もはや元に戻らない割合が高いことも議論されています。他方、この地球に張り巡らされたサプラチェーンは再構築が避けられない、しかも決済や基本通貨のグループ化を伴った再編が必須、かつそれは不可逆的かと思います。ウクライナ侵攻は「中立パーワー」を登場させ、世界を三分させようとしていますよね。
・ロシアへの賛否:GDP目盛りで観るか、人口目盛りで観るか

そして3極に割れた世界 協調嫌がる「中立パワー」台頭: 日本経済新聞

いずれにせよこの大激動期にあって、しかしながら、とても心配なことがあります。世界の中で、日本の若者が閉塞感の中に沈殿しているように見えるのです。

 

■閉塞感を生きる日本の若者

ご存じのように、2023年4月から約140年ぶりに成人の定義が変わります。成人年齢が20歳から18歳に引き下げられるのです。日本の中にあってみているだけですと、この動きを歓迎している若者もいて、大変頼もしい限りなのですが、世界の中に、位置づけて見直すと、少し違う姿が見えてきます。

日本財団が2019年と2022年に、世界六カ国の若者を対象にした調査、「国や社会に対する意識」を行っています。その調査結果で、以下の6つの質問に対し、いずれも、ネガティブな回答で最低の数値だったのです。日本が。

イ.自分を大人だと思う
ロ.自分は責任がある社会の一員だと思う
ハ.将来の夢を持っている
ニ.自分で国や社会を変えられると思う
ホ.自分の国に解決したい社会課題がある
ヘ.社会課題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している

・第46回「国や社会に対する意識」(6カ国調査)2022年実施
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2022/03/new_pr_20220323_03.pdf
・第20回「国や社会に対する意識」(9カ国調査) 2019年実施
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/11/wha_pro_eig_97.pdf

今回の知恵クリップでは、このあたりの現状と、18歳の彼ら彼女らが組織に入っていった場合の、組織の側の改革案として参考になりそうなコンセプトを紹介しています。

 

■知恵クリップ

●18歳の結婚観 「必ず結婚すると思う」は20%未満(Forbes JAPAN) https://news.yahoo.co.jp/articles/a2e1b574ceec9d9bd5cc8300e71901f4ffbf7bd3
「将来結婚したいと思うか」には男女とも4割超が「したい」と回答。他方、「実際に将来、結婚すると思うか」という問いには「必ずすると思う」との回答が男性で約2割、女性で約1割にとどまった。

 

●【調査報告】「成人年齢引き下げ」に際する意識調査 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000039106.html
「一方、34.0%の人は「早すぎる」と感じていました。理由として、経験不足により判断力、責任能力が成熟していないまま、親の同意を得ずに様々な契約ができることによって、トラブルに巻き込まれる若者が増えるのではないかと危惧する声が挙がりました。また、喫煙や飲酒可能年齢が20歳のままであることとの整合性が取れないことを懸念する人もいました。」

・半数を超える61.4%の人が「ちょうど良い」と回答

 

●「自分は大人」日本は約3割 6か国中最低 18歳前後への意識調査 | NHK | 18歳 成人年齢引き下げ https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220402/k10013564041000.html
「自分は大人だと思う」と答えた若者の割合は、
▼イギリスと▼アメリカは86%、
▼インドが84%、
▼中国が71%と4か国では7割から8割を占め、
▼韓国は47%、
▼日本は27%と最も低くなりました。
また「自分の将来が楽しみだ」とか「多少のリスクが伴っても新しいことにたくさん挑戦したい」といった質問でも6か国中、最も低くなりました。」

・「自分は大人」:日本は27%と最低

 

●閉塞感の中で生きるニッポンの若者 ―18歳意識調査 : 「将来良くなる」13.9% https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01309/
「日本は「自分の国の将来が良くなる」と考えた人の割合が13.9%と最も低く、「悪くなる」は35.1%と最も高かった。G7(先進7カ国)構成国である英国・米国も「良くなる」と答える人は少なく、先進国に共通の傾向だが、日本の少なさは群を抜いている。

(他方)中国では95.7%が国の将来を前向きに捉えており、「悪くなる」と回答したのはわずかに1.2%だった。」
・自分の国の将来について

 

●若者の8割が「社会は変わらない」と諦める日本を変えたい。25歳の私は教育に挑戦する https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ea6c9b9c5b61d8d7bee58eb
日本財団の『18歳意識調査』結果を目にすると、「解決したい」と思ってもらうだけでは不十分で、「自分でもできることがある」というようなCANの感情を持つ人を育む必要があると感じた。」

「データからは日本の若者の大半が「自分では国や社会は変えられないし、そもそも解決したいと思う問題もない」と感じていると解釈することができる。」
・国や社会を変えられる?

 

●米国で急増する大規模離職、従業員が「会社を辞める」と決断する“第1位”の理由とは? https://signal.diamond.jp/articles/-/1065
「賃金や報酬が離職を防ぐ影響を1とし、従業員を維持するための主要予測因子の影響を数字で表している。1位は、社内での新しいキャリアパスの提供だ。本レポートによると、すべての従業員が昇進を希望しているわけではないという。

多くの社員が求めているのは、気分転換や、新しいことに挑戦するチャンスだ。多国籍企業の場合は、海外赴任の可能性​​がある場合、現状の会社に止まるというデータもある。

2位以降は、リモートワークなど柔軟な働き方の提供、ハッピーアワーやレクリエーションなど社員同士が交流する場を設ける、予測しやすいスケジュール管理となっている。」

 

●アメリカに「大退職時代」が到来。日本はどうなる? https://www.workersresort.com/jp/culture/the-great-resignation/
日本でも広がる「早期退職」と、「FIRE」という選択肢:
「最近、注目を集めているライフスタイルに「FIRE」がある。「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった言葉で、経済的な自立を果たし、会社員などの定職から早期リタイアを果たすことを意味する。

人々がFIREを望む背景には、働くこと自体を避けたいという思いよりも、自分のペースで働きたい、自分のやりたい仕事をしたいという、ワークライフバランスや自己決定権への思いがあるようだ。」

 

●ドイツに抜かれそうな日本 ~「まずい」の危機感がないと本当にまずい https://www.dlri.co.jp/report/macro/230421.html
「ドイツは、財政赤字を嫌う。インフレも嫌いで、中央銀行は利上げでインフレの芽を潰すことを優先してきた。日本は、ドイツに比べると、かなりルーズである。財政は拡大し、インフレでも中央銀行は利上げしない。為替が、日本円よりもユーロの方が高くなるのは、金融財政政策の差に起因する部分はあるだろう。」

・日独の違い

 

●まだ「失われた30年」は終わらない…日本経済を衰退させた“残念すぎる”3つの真相 https://news.yahoo.co.jp/articles/21e60c141df6b669aec76f33b3e4831308e6088c
「日本社会の基本的な構造が1975年ごろのもので固定されてしまっているのだ。政策の体系、政治の仕組み、組織の構造、高等教育の内容などが変わっていない。基幹産業であった製造業が衰退したのだから、それに応じて社会の仕組みも変わるべきだ。そうならなかったことが、その後の日本経済の停滞をもたらしたと考えることができる。」

「2000年以降、医療・福祉を除けば、日本の産業構造はほぼ固定化してしまった。つまり、日本はこの20年間、産業構造の転換が進んでいないことになる。」

・製造業と非製造業の付加価値の推移

・産業別就業者数の推移(2000年以降)

 

●コロナ禍収束にともなう「リベンジ消費」は限定的 https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2022/cc/1025_1
「企業は安易に既存商品・サービスの「リベンジ消費」を期待するのではなく、変容した生活者の趣向や行動を捉え、デジタル化による新たな利便性価値やプレミアム体験価値の提供を目指したビジネス展開を検討していくことが求められる。」

「コロナ禍に入りまもなく3年が経とうとしている中で、社会全体の半強制的な自粛生活や、テレワークが推進・定着したこと、オンライン化・デジタル化した生活様式が長引いたことから、いよいよ人々の生活の中でニューノーマル(新常態)な生活様式が根付いてきたものと考えられる。」

・「慣れてしまった」ので、コロナ前には戻らない

 

●「仲が良すぎる」職場は、成果より人間関係重視で挑戦がない https://logmi.jp/business/articles/327300
仲の悪い組織は、もちろんパフォーマンスには良くないが、だからといって仲が良すぎる。仲が良すぎるのも実はパフォーマンスや成果にはつながりにくい。「新しいチャレンジングなことをしなくても、みんながつらい思いをしないほうがいいんじゃない?」みたいな判断が増えてきてしまうから。

「心理的安全性」:率直に自分の意見を伝えても、対人関係を悪化させないという信念が共有されている状態。
・成果やパフォーマンスと「心理的安全な関係」

 

●創造性を発揮したくない日本人。その処方箋を考える https://www.works-i.com/project/littlec/creativity/detail001.html

お互いの創造性を引き出しあうような関係性の存在が、組織にあるか。

「職場の多くの人が関わって一つのアイディアを育てる発想や機会がなかったり、新たな提案を行う際に最初から高い完成度が必要だったり、言い出した人がすべてをやりきることを求められたりするような職場では、提案を行うことは孤独で負担が大きなものになりやすい。そうなれば、誰かが問題意識を持ってもそれに蓋をしてしまう、まだ力量のない人の萌芽的なアイディアが育たず、若手の重要な視点に基づく提案が見逃されてしまう、ということが頻繁に起きかねない。」

・新しいアイディアを考え、創造性を発揮することを大事だと考える人の割合

・2025年に向けて重要性が高まるスキル(世界経済フォーラム『仕事の未来レポート』より)