自由市場派への反論

原因者に対策をとらせるか、被害者に対策をとらせるかの決定を市場にゆだねるべきとする自由市場派の考え方には、以下の問題がある。

一 取引費用(情報費用、契約費用、履行費用)は、被害者が多数であり、製品・生産工程にかかる情報が公開されていないことなどから、被害者から交渉を開始する場合の方が高い。※I):「外部費用抑制のための協定に達するに当たっての決定費用[取引費用]は、現在の仕組みのもとでは、不必要に高い。」(『経済成長の対価』(岩波書店、一九七一年))

二 被害者の方が社会的弱者であることが多く、汚染権を汚染者に与えることは被害者から汚染者に所得を移転させることとなるため、不公正である。※II):「人々の便益や健康を冒している比較的重要な外部効果の大部分は、社会の中でもどちらかと言えば貧しいグループの人たちのうえにのしかかっている」(『経済成長の対価』(岩波書店、一九七一年))

三 被害者は、被害が発生した後にしか交渉に入れない。交渉の間は、被害が放置される上、事後的な対応では、不可逆的な問題に対応できない。※III):問題の解決のための行動をとっている間は、汚染の被害を受けている側が汚染を甘受せざるを得ない。(<i>Environment and Economy</i>)

■参考文献
『経済成長の代価』  E. J. ミシャン※IV):『経済成長の代価』を発表以降、生活の質の観点から、経済成長への批判、当時の経済学への批判を展開したことで知られる。[編集部]
原著一九六七年

Environment and Economy、 D.W.Bromley、 Blackwell Publishers、 1991

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なぜ経済学は経済を救えないのか
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I. :「外部費用抑制のための協定に達するに当たっての決定費用[取引費用]は、現在の仕組みのもとでは、不必要に高い。」(『経済成長の対価』(岩波書店、一九七一年))
II. :「人々の便益や健康を冒している比較的重要な外部効果の大部分は、社会の中でもどちらかと言えば貧しいグループの人たちのうえにのしかかっている」(『経済成長の対価』(岩波書店、一九七一年))
III. :問題の解決のための行動をとっている間は、汚染の被害を受けている側が汚染を甘受せざるを得ない。(<i>Environment and Economy</i>)
IV. :『経済成長の代価』を発表以降、生活の質の観点から、経済成長への批判、当時の経済学への批判を展開したことで知られる。[編集部]