「進化論が人種差別を助長する」と批判された結果、二十世紀初頭の西洋では「社会」という概念は、ヒトに関してだけ適用されるものになってしまっていた。
動物の行動を研究する自然科学者と、ヒトの行動や文化を扱う人類学者・社会学者との隔たりも大きくなっていた。I):一般的には自然科学(理系)でヒトの社会を扱うことはしない。一方、ヒトの社会を扱うのは社会科学(文系)であるが、その社会科学でヒト以外の生物が研究対象となることはまずない。また多くの動物行動研究においては、外部から客観的に——あたかも「神」が視るがごとく——動物を見ようとするのが自然科学の正しい方法だとする考え方が主流だった。他方、文化人類学や社会学では対象となる社会に入り込んでその社会を見るやり方を基本としている。文系であたりまえであるやり方にもかかわらず、動物の「社会」について、対象の社会に「入り込む」ことが理系では客観的でないとして忌避される傾向があった。この学問的間隙を埋めるのは何なのかが、第二節以降で展開される。
■参考文献
『人類進化論——霊長類学からの展開』第一章 霊長類学の発想 [九~一〇ページ] 山極寿一(裳華房、二〇〇八年)
『攻撃―悪の自然誌』 コンラート・ローレンツ 日高敏隆・久保和彦訳(みすず書房、一九七〇年)原著一九六三年
『攻撃性の自然史』 J・D・カーン、F・J・エブリング 香原志勢・鈴木正男・田中二郎・西田利貞共訳(ぺりかん社、一九七四年)原著一九六四年
『政治をするサル―チンパンジーの権力と性』 フランス・ドゥ・ヴァール 西田利貞訳(どうぶつ社、一九八四年)原著一九八二年
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註
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