難産と長い老年期

さらに、二足歩行と大脳化の代償として、人類は難産になってしまった。I):直立二足歩行を始めたことによって、人類の骨盤は、内臓や上半身の重さを支えるためお皿のような形に変形した。しかも足を前後に平行に出すため、骨盤を横に広げられない。この結果、赤ちゃんの頭の大きさに比べ産道が狭く、人類のお産は時間がかかり、難産で母親が死ぬことさえある。

ヒトに固有なもう一つの生活史の特徴「閉経後の長い老年期」は、早期にリスクの高い繁殖を終え、娘や孫の出産や子の世話を助ける方法として進化したのかもしれない。この「祖母の育児参加」もまた、人類社会が家族を基礎とした共同育児を進化させるのに重要だっただろう。II):ヒトの女性はなぜ、他の霊長類やヒトの男性と異なり、死の間際まで繁殖可能でないのかという疑問に対して、アメリカの人類学者クリスチャン・ホークスはいわゆる「おばあちゃん仮説」を提唱している。人類はほかの類人猿に比べ多産なのに、子どもの成長には時間がかかる。だから繁殖を終えてまだ体力のある祖母が娘の子育てを手伝い、食物を分配して孫の生存率を高めた、というのである。


■参考文献
『サルの生涯、ヒトの生涯——人生設計の生物学』  デビッド・・スプレイグ(京都大学学術出版会、二〇〇四年)

『家族進化論』第四章・第十一節 老年期の進化  山極寿一(東京大学出版会、二〇一二年)

Hawkes, K. (2003). “Grandmothers and the evolution of human longevity”. American Journal of Human Biology 15: 380–400.

・ゴリラから学んだこと~/京都クオリア研究所
http://bit.ly/2tDKgK6[編集部]

 

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I. :直立二足歩行を始めたことによって、人類の骨盤は、内臓や上半身の重さを支えるためお皿のような形に変形した。しかも足を前後に平行に出すため、骨盤を横に広げられない。この結果、赤ちゃんの頭の大きさに比べ産道が狭く、人類のお産は時間がかかり、難産で母親が死ぬことさえある。
II. :ヒトの女性はなぜ、他の霊長類やヒトの男性と異なり、死の間際まで繁殖可能でないのかという疑問に対して、アメリカの人類学者クリスチャン・ホークスはいわゆる「おばあちゃん仮説」を提唱している。人類はほかの類人猿に比べ多産なのに、子どもの成長には時間がかかる。だから繁殖を終えてまだ体力のある祖母が娘の子育てを手伝い、食物を分配して孫の生存率を高めた、というのである。