ベルンシュタイン

ユクスキュルの「環世界」は生物の根底にある主観性の理論を構築し、ギブソンは心理学の立場から認識のレベルの人間の理解の世界を追及しましたが、これをより運動の面から詳細に探究したのが、ロシアの生理学者ニコライ・ベルンシユタイン(※I):ロシアの生理学者(一八九六~一九六六年)。運動能力を高める訓練の一つである「コーディネーショントレーニング」の提唱者として知られています。パブロフの反射学説に反対し、スターリン政権から職を追われた彼が一九四十年代に書き残していた七つの論考は、代表的な著書『デクステリティ 巧みさとその発達』にまとめられています。しかしその原稿は政治的な理由で生前発刊されませんでした。彼の死後二〇年経って偶然研究施設の屋根裏から発見された草稿が出版され、英語に訳され、日本語で出版されたのは20世紀に入ってからのことでした。)です。

人間の身体能力は四つの概念で構成される。すなわち力強さ、スピード、持久力、そして巧みさ。「巧みさ」は制御の機能であり、その実現には生物の身体の持つ自由度の協応が最大の役割を果たす、とベルンシュタインは指摘します。

「巧みさは生活していく中での行為や動作経験の蓄積である。このため巧みさは歳をとるにつれて向上することが多く、他の心理物理学的能力よりもずっと長いあいだ保持される。そして心理的な他の能力と同じように、巧みさには個性がある。」(引用:ベルンシュタイン 『「デクステリティ』 金子書房、二〇〇三年)


■参考文献
デクステリティ 巧みさとその発達』  ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ベルンシュタイン 二〇〇三年

★この記事はiCardbook、『<人工知能>と<人工知性>: —— 環境、身体、知能の関係から解き明かすAI—— 』を構成している「知識カード」の一枚です。

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I. :ロシアの生理学者(一八九六~一九六六年)。運動能力を高める訓練の一つである「コーディネーショントレーニング」の提唱者として知られています。パブロフの反射学説に反対し、スターリン政権から職を追われた彼が一九四十年代に書き残していた七つの論考は、代表的な著書『デクステリティ 巧みさとその発達』にまとめられています。しかしその原稿は政治的な理由で生前発刊されませんでした。彼の死後二〇年経って偶然研究施設の屋根裏から発見された草稿が出版され、英語に訳され、日本語で出版されたのは20世紀に入ってからのことでした。