Tag Archives: 都度課金型

電子図書館と「読み放題」|「読み放題モデルってどうなのよ」 手元メモ その4

前回、「潜在読者の掘り起こし」と「本と読者のマッチング」を、「「所有」から「利用」へ」あるいは「readingからscreeningへ」のパラダイム転換に対応して展開するのが、「読み放題」というビジネスモデルなのだ、とした。

ここで、本の場合、所有にはコンテンツ単品・買い切り/売り切りの支払方法が、利用にはサブスクリプション(コンテンツを利用した期間に応じて料金を支払う方式)の支払方法が対応すると想定されている。

・所有権:コンテンツ単品単位ベースの取引 買い切り/売り切り
・利用権:コンテンツのマスベースの取引  サブスクリプション(コンテンツを利用した期間に応じて料金を支払う方式)

しかし第一回(その1)に書いたように、二つの異なる世界、また様々なジャンルがあるので当然のことながら、「単品・買い切り/売り切り」と「マス・サブスクリプション」の間にはバリエーションがある。

しかも価格(料金)政策はサービス利用者向け価格にだけ知恵を絞ればよいのではない。

「読み放題」サービスの事業を構築する際、プラットフォーマーにとっての最大の課題が、「書籍コンテンツの仕入れ価格体系と、サービス価格体系との組み合わせの工夫」になる。 Continue reading

 

●情報活用能力調査の結果 とスマホの時代

D:<学習・教育のデジタル化>と<脳と身体の生態史観>

●情報活用能力調査の結果 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/03/24/1356195_1.pdf
小学生、中学生を調査。情報活用能力=「情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的資質」。上位の学校群の教員がやっていること、下位との違いの整理も。

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選書・蔵書のお悩み解決「都度課金型」モデル 公共図書館

LibrariE(ライブラリエ)JDLS日本電子図書館サービスが提供する電子図書館の新しいモデル【セミナー備忘録】(番外編)

 

選書・蔵書のメカニズム

図書館は刊行された書籍すべてを書架に揃えるわけにはいかない。経済的、物理的制約がある。

• 経済的制約:図書購入費の予算がどの程度確保されているか。またその、今後の見通し。

• 物理的制約:図書館の収納場所は限られている。除架(利用されなくなった、あるいは内容が古くなった書籍を書架から除去する)、除籍(所在不明であったり、破損・汚損のある書籍の管理簿から削除)の作業をしながら書架を管理していく。

そういった制約の中で、どういった選書をし、蔵書構成を整えていくのか。

この選書・蔵書の選択基準について、資料そのものの価値を重視した『資料重視型』(価値論)と、利用者の「情報要求」を重視した『利用者重視型』(要求論)がある。規模の大きい図書館ではこの選択基準を「選書方針」としてワーディングしている。

ただし価値論と要求論とは二項対立する概念でもなく、重なる部分がある。すなわち、要求論でも、その出発点に、「要求」と「ニーズ」のふたつを据えている。

要求とは、リクエストを含めて、何らかの形で図書館員に直接伝達される資料や情報へのアクセスの主観的な必要性を表し、社会的要求や自己実現要求などの階層を持つ。

一方、ニーズは潜在的で、これを把握するためには、図書館員側の特別な注意力や知識,直感力が必要とされる。

(出典:『図書館情報学用語辞典』)

ニーズ把握の過程には、その図書館の利用者に対し当然収蔵すべき書籍は何か、といった観点もはいってくる。

大学図書館と公共図書館とでは利用者が異なり、その分、選書方針も違ってくるだろう。

専門的な知識をめぐる学習者や研究者が利用者で、学習や研究、「知る読書」をサポートする大学図書館。

「楽しむ読書」や生活や仕事に関する実用的な「知る読書」を前提にしている公共図書館。たとえば、日野市立図書館の「資料収集方針」はこんな具合だ。

(基本方針)
第2条
日野市立図書館は、「図書館法」及び「日野市立図書館基本計画」の基本理念【くらしの中に図書館を‐市民に役立ち、ともに歩む図書館‐】に基づき、次の任務を果たすための資料を収集する。
(1)すべての市民にサービスを提供する。
(2)市民の地域活動、生活、仕事などに必要な資料・情報を収集し提供する。
(3)市民の余暇活動を支援する。
(4)市民の調査・研究の援助を行う。
(5)日野市の地域資料・行政資料を収集・保存・提供し、日野市の歴史を未来に伝える。

日野市立図書館資料収集方針について https://www.lib.city.hino.lg.jp/hnolib_doc200801/library/syuusyuuhousin.html

 

貸出回数はどれだけ重要か

そしてこの違いはそれぞれの図書の利用のされ方にも影響してくる。

「楽しむ読書」の領域では、人気度や貸出頻度が書籍選定の巧拙を表す指標として使われやすい。しかし「知る読書」の場合、将来の「知る」要求やニーズに備えて、あらかじめ選書・蔵書しておく、という側面が強い。つまり、貸出頻度だけでその巧拙を判定するわけにいかない事情がある。

実際、公共図書館と大学図書館の貸し出し状況はこんな風だ。

公共図書館の貸し出し状況とベースになる計数

①住民の中で登録した人は平均して年に12.6冊の貸出を受けている。
②蔵書は一年間に、平均1.64回利用されている。
(ただし、同じ本が何回も借りられているケースがありうるので、すべての本が年に1.64回利用されているわけではない。あくまで平均値)
③特に市区立、町村立の図書館は「要求論」の立場から選書、蔵書した結果が表れていると考えられる。
④都道府県立の図書館は大学図書館と市区立図書館と、両方の性格を併せ持つ立場にいると推定される。

大学図書館の貸し出し状況とベースになる計数

①学生、教職員は平均して年に6.4冊の貸出を受けている。
②6.4冊の貸出を受けるのに、図書館を年に平均2回利用した。
③蔵書は一年間に、平均約十冊に一冊の割合で利用されている。
(ただし、同じ本が何回も借りられているケースがありうるので、点数ベース、ユニークな本の総数に対して9.5%の割合で利用されているわけではない)
これは大学図書館が価値論」の立場から選書、蔵書している結果であると考えられる。

従量制は図書館サイドの悩みを解決するか

ところで21世紀にはいって日本の行政と教育の現場は、遅れてやってきた「成果主義」の渦中にある。だが「ポスト・モダン」の文脈からいうと、教育や学習の領域は「成果主義」になじまない要素がある、というのはもはや1世紀の、共通認識ではないのか。介護や育児と同様、「効率性」だけでそのパフォーマンスを測ってはいけない領域に属する。

●もう一つの「図書館戦争」 http://www.alterna.co.jp/10947

つまり、価値論と要求論の重なる部分、住民のためにあらかじめ備えておくといった発想で収書、蔵書される種類の書籍が、貸出頻度だけで判定されるのでは図書館の本来の目的、必要な機能は果たせない。

ここでもう一度、LibrariE(ライブラリエ)の価格体系、その中の「従量制」の仕組みを振り返ってみよう。

「LibrariE」のビジネスモデルは? http://www.wildhawkfield.com/2015/03/JEPA-seminar-JDLS-LibrariE.html

LibrariE(ライブラリエ)は、「ワンコピー/ワンユーザー型」と「都度課金型」のセットとして価格体系を構築している。

図書館はまず、「ワンコピー/ワンユーザー型」である書籍の「アクセス権」、アクセスサービスに対する対価を支払う。この支払いで、ひとつの書籍を2年間または「52回まで」貸出することができるようになる。

この「2年間または「52回まで」」が終った時点で、再度「ワンコピー/ワンユーザー型」を選ぶか、「都度課金型」に移行するかを選ぶ。

さて紙の書籍であると、所有権を購入する。そして買った以上は貸出が行われないと何のために購入したのか、問い詰められる場面に遭遇する。

その点、「都度課金型」は読まれた頻度に応じて支払が生じる。その意味では選書・蔵書の悩みを解決してくれる価格モデルだと言える。「あらかじめ選書・蔵書しておく」ということがやりやすくなる。

ただここで厳密に言うと蔵書しているのは、実はサービスを提供するLibrariE(ライブラリエ)のサーバーだ。つまり、蔵書機能をLibrariE(ライブラリエ)に依存することで、個別の図書館は「あらかじめ選書」という機能に徹し、市民に対し、より少ない金額でその図書館の使命を果たすことができるようになる、というわけだ。なにしろ、「都度課金型」の価格は、「ワンコピー/ワンユーザー型」の26分の一なのだから。

しかも電子書籍は、除架(利用されなくなった、あるいは内容が古くなった書籍を書架から除去する)や除籍(所在不明であったり、破損・汚損のある書籍の管理簿から削除)の作業が不要というメリットもある。

出版社の悩みも解決する、LibrariE(ライブラリエ)の価格体系

もっともJEPAセミナーでも質問があったように、入口の価格はあくまで「ワンコピー/ワンユーザー型」、しかも推奨価格は本体価格の1.5倍から2倍だという。「都度課金型」で図書館に利便性を提供したLibrariE(ライブラリエ)だが、入り口では電子書籍を提供する出版社の側を見ている。

だから図書館側は不満だ。

 質疑応答:価格が底本の1.8倍というのは予算上厳しい http://www.wildhawkfield.com/2015/03/JEPA-seminar-JDLS-LibrariE.html

しかしここから、プラスの循環にはいるか、マイナスの循環にはいるか、それは図書館の選書行動にかかっている。

大学図書館は「価値論」で、一方公共図書館はどちらかというと「要求論」に重きをおいて、これまで選書してきた。これを少しだけ「価値論」へシフト、これまで購入してこなかった書籍の電子版について、その「(制限付)アクセス権」を購入する。そうするとその数は出版社側からすると、「新しい売上」になる。

しかも電子図書館が仮に100%普及したとすると、3467(館)という数字が分母。

初版部数数千部という、「知る読書」用の書籍にとって、決して小さな数字ではない。

ここから思考実験。

電子書籍の(アクセス権の)価格が本体価格の十分の一なら従来の10倍の点数を購入できる。二十分の一なら20倍の点数を購入できる。この状況で少しだけ「価値論」へシフト、これまで購入してこなかった書籍の電子版を購入する、すると今度はこの状況を見て出版社が、入口から「都度課金型」でいく書籍銘柄を選定してみる、そこでいよいよ図書館が電子版へシフトする、といったことが起きるかどうか。

プラスの循環にはいるかどうかが、今後の課題だ。

JDLSの経営目標は、

「図書館に求められる「"知"の集積」という基本機能と、著作者および出版社が必要とする「"知"の再生産」に必要な還元の仕組みを、ともに成立させるべく図書館・著作者・出版社の新たな関係を提案」する、

というものだ。

この「ともに成立させる」という観点でよく練られたビジネスモデルだというのが、セミナー会場で話を聞いた電子書籍関係者が異口同音にもらした感想だったが、それはこのプラスの循環にはいる契機を含んでいるポイントに凝縮される。

米国の公共図書館の9割以上が電子図書館を利用している、という。住民の側に「ニーズ」があり、それを図書館が汲み上げているからだ。

「図書館」と「Library」は同じじゃない。 | 詩想舎の情報note https://societyzero.wordpress.com/2015/01/08/00-208/

「価値論」と「要求論」のバランス、そして「要求論」の中の住民の間にある、移行期にある時代の「ニーズ」をどれだけ把握できるか。それは図書館職員の感性次第ということになる。なにしろ、「ニーズは潜在的で、これを把握するためには、図書館員側の特別な注意力や知識、直感力が必要とされる」というのだから。

 


◇関連クリップ
●LibrariE(ライブラリエ)JDLS日本電子図書館サービスが提供する電子図書館の新しいモデル【セミナー備忘録】
(上)LibrariE(ライブラリエ) 電子図書館の新しいモデル http://society-zero.com/chienotane/archives/568
(中)日本の電子図書館の活用状況・普及の程度 http://society-zero.com/chienotane/archives/573
(下)公共図書館に電子書籍がふさわしい理由 http://society-zero.com/chienotane/archives/599

●図書資料の流れ http://plaza.umin.ac.jp/~jmla/event/kako/kiso-back/11th_kiso/01_tosho1.pdf
●第1章 蔵書評価とその方法 | No.7 蔵書評価に関する調査研究 http://current.ndl.go.jp/node/2258
●日野市立図書館資料収集方針について https://www.lib.city.hino.lg.jp/hnolib_doc200801/library/syuusyuuhousin.html
●もう一つの「図書館戦争」 http://www.alterna.co.jp/10947
全国の図書館で、統廃合や予算削減の話が引きも切らない。もっと
深刻なのは、質劣化の懸念:館数が増加しているにもかかわらず、
資料費も司書の人数も減少している。
●出版・流通と図書館の蔵書構成(選書方針、ツールなど)http://www.slis.tsukuba.ac.jp/grad/assets/files/syllabus/syuppan2014vol.2.pdf 

 

LibrariE(ライブラリエ) 電子図書館の新しいモデル

LibrariE(ライブラリエ)JDLS日本電子図書館サービスが提供する電子図書館の新しいモデル【セミナー備忘録】(上)

3月18日の本セミナーは「日本独立作家同盟」代表の鷹野凌氏が翌日まとめ公開しているので、詳しい内容はそちらに任せ、ここでは感じたこと、ディテールで気になったこと、そもそも論、について書いてみよう。

まずは対象の絞り込みと言葉の統一を最初に断っておこう。

「電子図書館」は、日本電子出版協会(JEPA)の数ある委員会の中のひとつ、電子図書館委員会で「自宅(館外貸出)で、雑誌・書籍を電子版で読む」機能があることとしているので、それに従う。

統計などでは、「公共図書館」が一般的なようなので、原則「公立図書館」は使わない。

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