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デジタル教科書の国際標準「EDUPUB」 第5回 【セミナー備忘録】(下)

4-6:LTI/外部アプリ連携

・「LTI」は外部コンテンツ、外部アプリとの連携のためのインターフェース、通信に関する仕組み、仕様のこと。
・この仕組み、仕様がうまく作れると、電子教科書の容量を軽くすることが可能になる。また分業化、他業種からの参入をを促すきっかけになり、ビジネスモデルを大きく変えることになりうる項目でもある。たとえば下図、右下の「シミュレータ」に関して「仮想的な実験をするアプリ」など、米国でベンチャー企業がいくつものサンプル事例を競っていた。
田村3  jepa150311 6https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/田村3- jepa150311-6-300x225.jpg 300w, https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/田村3- jepa150311-6-1024x768.jpg 1024w" sizes="(max-width: 1138px) 100vw, 1138px" />

・「軽くする」というのは、教育の現場でとりわけ重要だ。重たいままでは、電子教科書を使った授業が、頭でっかちな非現実的なものになってしまいかねない。特に日本での電子書籍の議論は、電子教科書にどんどん技術的に可能になったことを詰め込む発想が強い。政府施策もどちらかというとそういう思考が垣間見られる。これが究極までいって、一単元で数十ギガの電子書籍が作られてしまった例を知っている(田村先生)。EDUPUBでは全く反対の方向性での議論が続いており、日本での電子書籍検討の方向性を変えていく、ポリシーコントロールが重要だと実感している。
田村7  jepa150311 12https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/田村7- jepa150311-12-300x225.jpg 300w, https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/田村7- jepa150311-12-1024x768.jpg 1024w" sizes="(max-width: 1134px) 100vw, 1134px" />

 

4-7:Caliper/学習分析データの収集

・データ収集により、生徒がどこまでを学習したのか、どこまで理解が進んでいるのか、といった家庭教師が果たしているような機能が実現できると期待されている技術。
・米国の教育界で「Learning Analysis」というキーワードが共有されているが、それは学習活動状況に関するデータを使って、

学習者へのフィードバック、あるいは
教師への評価

に使われることが想定されている。そのためEDPUBのCaliper Analyticsに関する動向にも熱い視線が注がれている。

 

4-8:QTI:テスト実施と採点

・eラーニングの世界で長い経験と実績があるIMS Global Learning Consortiumに豊富なノウハウがある分野。
・これも過去に書いた記事があるのでご参照ください。

セミナー備忘録:電子教科書のドリルをどうする!? https://societyzero.wordpress.com/2014/07/28/00-40/
セミナー備忘録:電子教科書のドリルをどうする!?(2)~「教育の再設計」とEDUPUB https://societyzero.wordpress.com/2014/08/04/00-48/

4-9:今後

・実は、現在の「QTI」はHTMLに準拠して記述されてはいない。独自のXML形式で記述されている。電子書籍のフォーマットEPUBはHTMLとCSSをZIPで固めたもの。この違いがかねて指摘されていたが、それを意識したのかどうかはまだわからないが、IMSはQTIの次のバージョンを準備している(QTI v2.1, aQTI– APIP (Authoring & Delivery))。またLTIも( LTI v2)。

・そしてもうひとつ。(上)編で、「技術標準化WGはEDUPUBの活動と重なる部分があるが、ICT CONNECT21ではさらに、「校務系」を扱うサブワーキンググループ(SWG)も準備している」と書いたが、IMSの2015年の活動として、eduERPが構想されている。

・「ERP」とはEnterprise Resource Planningのことで、通常は企業組織のシステムインフラについて、企業の持つ様々な資源(=リソース:人・モノ・金、情報など)を統合的に管理・配分し、業務の効率化や経営の全体最適を目指す手法で、同時にそのために導入・利用される統合型(業務横断型)業務ソフトウェアパッケージ(ERPパッケージ)を指す。eduERPがIMSで構想されているとはつまり、校務を含む、学校の統合システムをも展望したディスカッションが、EDUPUBのもとで始まることを意味しているのかもしれない。

 

5.まとめ

・改めて、EDUPUBで検討されている項目と、それを誰が担当しているかを整理すると以下の通り。
田村4  jepa150311 9https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/田村4- jepa150311-9-300x225.jpg 300w, https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/田村4- jepa150311-9-1024x768.jpg 1024w" sizes="(max-width: 1135px) 100vw, 1135px" />

・議論を続ける中で、当初想定していなかった話題も浮上してきていて、それは点線四角囲いで示した。

・「Teacher's Guide」は教師用教科書でそのための「タグ」が議論されている。これがきちんと具体化できると、教師にとって便利なだけでなく、学習者に自習のヒントや、学習方法についてもフィードバックを返してあげることができるなどの機能実装へつながっていく可能性も秘めている。
・ちなみに教育工学系の国際学会AACE(Association for the Advancement of Computing in Education http://www.aace.org/ コンピュータを使った教育(教授法)学会)の行事に参加したことがあった。そこでは教師用指導書の朱書編(生徒用教科書にクイズ解答や板書例などを追記したもの)を自習用として用いるアイデアが議論されていたが、電子教科書への関心・期待が高く、多くの質問やコメントを頂戴した(村田先生)が、これは上記EDUPUBの項目とも密接に関連している。
・EDUPUBは米国の教育界で広く、熱く話題になっているようだ。

EDUPUB全体像 150318https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/EDUPUB全体像 150318-300x251.jpg 300w" sizes="(max-width: 705px) 100vw, 705px" />
(クリックすると鮮明画像が見れます)

・協議の成果物は以下のURLに掲載されている。
EDUPUB全体像とURL 150318https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/EDUPUB全体像とURL 150318-300x134.jpg 300w" sizes="(max-width: 705px) 100vw, 705px" />

(クリックすると鮮明画像が見れます)

 

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デジタル教科書の国際標準「EDUPUB」 第5回 【セミナー備忘録】(中)

3.フェニックスの会議の概要

・実は第三回の2014年6月19日のオスロ会議は、その翌日6月20日の「ISO/IEC JTCI/SC36 Open Forum」と連動して開催された。2014年11月5日に「EPUB3」が、ISO/IECから“Technical Specification”として認定・公開されたのにはこの時の会議の貢献もあったことだろう。その意味では今回もIMSの四半期会議、また「Caliper Analytics & LTI Bootcamp」と隣接してEDUPUB Phoenix 2015も開催された。
・二日目の2月27日には「Implimentation」の単語があったが、会議の実際ではそういう類の発表はなかった模様。
田村1  jepa150311 4https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/田村1- jepa150311-4-1024x768.jpg 1024w, https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/田村1- jepa150311-4.jpg 2000w" sizes="(max-width: 559px) 100vw, 559px" />

4.拡張機能・仕様の内容と議論の現状

EDUPUB Phoenix 2015 報告 田村 恭久 氏(上智大学、JEPAフェロー)
IDPF、W3Cのデジタル教科書、教材関連標準化動向 村田 真 氏(JEPA CTO)
EDUPUB Profile解説 高瀬 拓史 氏 (イースト) 

(ここから先は、登壇ご講演された三人の方の内容を自分用に統合・整理した記述になっています)

4-1:全体像

・下図「日本語表記」の部分は、お三人の資料を材料にわたしのような素人にもわかりやすい、という基準で考案してみたものなので、専門家がいるところでこの表記を使うとかえって誤解を生むかもしれないのでご注意。専門家がではどういう表記をしているかは、それぞれの資料にあたってください。

EDUPUB Phoenix 2015 報告 http://www.slideshare.net/JEPAslide/20150311-tamura
IDPF、W3Cのデジタル教科書、教材関連標準化動向 http://www.slideshare.net/JEPAslide/20150311-murata
EDUPUB Profile解説 http://www.slideshare.net/lost_and_found/on-edupub-profile

EDUPUB全体像 150318https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/EDUPUB全体像 150318.jpg 705w" sizes="(max-width: 549px) 100vw, 549px" />

画像URLはこちら

4-2:EDUPUB Profiie/EPUBの教育用プロファイル

・(上)編の冒頭、「EDUPUBとは」で述べたように、EDUPUBはEPUBを教育目的、教育現場で使うために、機能拡張をしようとしている。何を付け加えようとしているか、その「差分」がどいういう内容なのかを記述するのが、EDUPUB Profiie。だからこれをきちんと読むとEDUPUBで、3つの機関が議論している項目の全体像を把握できる。
・具合のいいことに、登壇者お三人のうち、EDUPUB Profiieをご担当いただいた高瀬氏は、プレゼンの相手が私のような初級者であることを想定して準備をしてくれている。資料は丁寧に作られていて、読むだけでも大体わかる。それで、このブログで詳細は省く。下記URLの資料に目を通してみて欲しい。

EDUPUB Profile解説 http://www.slideshare.net/lost_and_found/on-edupub-profile

EDUPUB Profile解説 高瀬 jepa150311 1https://society-zero.com/chienotane/wp-content/uploads/2015/03/EDUPUB-Profile解説 高瀬 jepa150311-1-1024x768.jpg 1024w" sizes="(max-width: 300px) 100vw, 300px" />

・ちなみに、田村氏は中級者向け、村田氏は上級者を想定しておられると想像される。

(世界の議論ではあたりまえだが、意外と日本で知られていない、そういう部分を若干拾うとこんな感じ)

・文書モデルとして日本で良く知られている2種類が想定されている。リフロー型とフィックス型。しかし教育目的である以上、「アクセシビリティ」への配慮は欠かせない。固定レイアウトであっても、画像ベースの固定レイアウトでは、「別途アクセシブルなレンディションを含むこと」が義務付けられている。
・また三番目の文書モデルとして「複数レンディション」がEPUB Multiple-Rendition Publications 1.0 に定義されている。一つのEPUBにリフロー、フィックス両方の本の形を格納してもよい。

・また教育目的である以上、「はい、みなさん、今日は教科書の60頁からです」と先生がいったとき、そこが開けないといけない。ページネ―ションがリフローにないという誤解があるが、教室でちゃんと使えるよう、EPUBにはページをふる機能がある。

・その電子書籍が、生徒用教科書か、教師用教科書か、教師用指導書かの区別がわかるうように、書誌情報が整備されている。また対象年齢、何歳用かも記述できる。

 

4-3:Open Anotation in EPUB/註釈

・アノテーションについては、過去にも書いたので、ここではくどくど繰り返さない。「注釈」という日本語から連想される範囲をはるかに超えた構想が議論されている点だけは押さえておくべきだろう。その結果、教科書とノートを広げて、先生の前ににみんなが集まって、という「教室の風景」が大きく変わる可能性を秘めた項目だ。

●「読書」を変える、EDUPUB・オープンアノテーション https://societyzero.wordpress.com/2014/09/04/00-82/

・4-1の「全体像図」を見ると、この項目のみ、IDPFとW3C、ふたつの機関の名前がある。もともとW3CでEDUPUBが始まる前から議論をしてきたという経緯があるから。W3Cでこれまで、InterestGで議論されていたのだが、今般EDUPUBの活動と前後して正式なWGが発足した。議論のグレードが上がるという意味では喜ばしいことだが、その性でスピードが落ちる懸念も出てきている。

 

4-4:WidgetあるいはScriptable Components/ウィジェットあるいは対話的コンテンツ

・スマホなどで使われる「ウィジェット」は、電卓、時計、株価情報など、小規模なアクセサリーソフト・コンテンツ(ウィジェットアプリ)のこと。EDUPUBで、つまり教育目的で議論されているのはデータをやり取りして(=対話的)作動する部品。たとえばチャートが作成されたり、グラフができたりするといった類のもの。

・Widgetは「HTMLとCSS、そしてJavascript」で記述されるコンテンツ(あるいは「部品」)。EPUB3では、Javascriptの使用を推奨はしていなかった。
•しかしEDUPUBでは、対象が教育用コンテンツなのでJavascriptを使うしかないことから積極的に標準化している。
・ふたつのやりかた、すなわちそのコンテンツ(部品)をパッケージ化し、必要があるたびに呼び出す方法、それとEPUBの中に埋め込んでしまうやり方が準備されている。

・連携したり、組み込まれたりするために、お互いがお互いを認識するためのファイル構造、メタデータをどうするか、などが議論されている。同様に、通信機構の工夫についても。

 

4-5:Distributable Objects/流通する(分解/再統合/変換される)素材

・仁徳天皇を祭った古墳の写真や説明文を使いまわしたい、といったニーズに応えるための項目。大学でも最近、自分の目の前にいる学生のレベルにあった、また自分の教授法にあった教材をつくるため、先生方はたくさんの教科書の中から、パーツを切り出してひとつのパワーポイントにまとめる例が増えてきている。そういうニーズを汲み上げることができるのがこの項目。教科書を作る出版社は製本されたものを販売すると同時に、あるいは電子教科書を販売すると同時に、その教科書の「部分」を、教材制作用「素材」として販売できるようになるかもしれない。

・さらに、「革命的な仕掛け(田村先生)」がこの項目で議論されている。せっかく教科書内容のアンバンドルと、リ・バンドルする仕組みを構想するのなら、電子教科書の「パッケージ」概念を脱構築して、ブラウザで見れるようにしてはどうか、という発想。
・これまでは電子書籍にしろアプリにしろ、ダウンロードし、手元のクライアント(端末)に格納し活用していた。それをやめてブラウザから閲覧できるようにしようというのだ。著作権の問題、ビジネスモデルなどを再検討することになるであろうアイデア。

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◇関連クリップ
EPUB-WEB ― 本とウェブとの境目をゼロにするビジョン - 電書ちゃんねる http://densho.hatenablog.com/entry/intro-to-epub-web
パッケージとしての文書、デジタル化で折角ポータブル(どこでも、いつでも読める)にしたのなら、もう一歩進めて、ブラウザで読めるようにしては、という発想が、ゆっくり具体化されていく、確かな里程標となる動き。