Evolution of the Human Sociality

「社会」の学としての霊長類学

『人類の社会性の進化(Evolution of the Human Sociality)』(上)「社会」の学としての霊長類学

■上巻のメッセージ

霊長類は熱帯雨林の住人であり、熱帯雨林の生態系の一部として生存していた。ところがおよそ一千五百万年前におこった気候変動により熱帯雨林の急激な縮退が起き、樹上生活者たる霊長類にとって生存環境の過密化という問題に直面した。

霊長類の中で、この問題の解としてニッチのすみわけという手法を採用したゴリラとチンパンジーは熱帯雨林に残るという選択肢を選ぶことができた。他方、サバンナに進出するという解を選んだものもいた。

彼らの中で、その後5百万年~7百万年前のさらなる寒冷化・乾燥化の中で独自の戦略を獲得し、完全に熱帯雨林と決別したものこそ、我々の祖先、ヒト、ホモサピエンスである。「社会的知性」の進化を携えながら、ここに人類の冒険は始まったのだ

■目次明細(上巻)

第一章 霊長類学の歩んできた道:夜明け前/日本霊長類学のはじまり/サルに文化はあるか/ニホンザルから類人猿へ

第二章 ニホンザルの社会とは:霊長類の社会進化モデル/北限のサルの研究史/ニホンザル社会の共通点と地域差/ニホンザル社会の共通点と地域差

第三章 霊長類とヒトの進化の舞台 熱帯雨林:霊長類が進化した場所/アフリカ熱帯林における霊長類の適応
/森を出た人類/人類祖先の道程/ゴリラとチンパンジーの共存/山極による同所的類人猿の研究

第四章 食と性が社会をつくる:食物が霊長類社会に与える影響/食物分配と社会性/人類進化と食物分配/霊長類の社会性をかたちづくる「性」/ヒトの性と社会進化

■「はじめに」より

「日本の霊長類学は当初から人間以外の動物に社会や文化の存在を求めてきた。その始祖である今西錦司は、「集まる」ことだけが社会の条件ではないと考えた。離れあっていても、出会わなくても、同種の個体はお互いの存在を感知しあっている。そしてそれぞれの種の個体は生活する「場所」において、他の種の個体と反応しあいながら共存している。それを今西は「種社会」、「全体社会」と呼んだ。この「場所」とは具体的な場所を指すのではなく、生物どうしがものや行動を通じて感応しあうことを意味している。実はこの考えは、西田哲学の影響を強く受けて練られている。西田は、生物自体ではなく、生物世界を構成するものとものとの間に働く動的関係が重要と考え、そこを「無の場所」と呼び、その見えない働きを見定めることを「直観」と称した。今西の「環境はその生物が認識し、同化した世界であり(環境の主体化)、生物は身体のなかに環境を担いこんでいる(主体の環境化)」という言説は、まさにこの西田の思想を体現したものである。」(山極 寿一)


『人類の社会性の進化(Evolution of the Human Sociality)』
(上)「社会」の学としての霊長類学
(下)共感社会と家族の過去、現在、未来
 著者 山極 寿一/本郷 峻

Evolution of the Human Sociality

人類の社会性の進化
(上)「社会」の学としての霊長類学