街全体が人工知能になる

AI、人工知能について、なんとなくわかった気がするけれど、でもほんとのところがよくわかってないな、知りたいなと思う方、二冊の本を紹介します。

三宅陽一郎さんの『人工知能と人工知性』、そして谷口忠大さんの『イラストで学ぶ 人工知能概論』。

■キャラクーAIから見た「知能」

FINAL FANTASYなどのゲーム制作に関与している三宅さんは、ゲームAIを構想し、キャラクターAIを実装していくうえで、そもそも人間の「知能」とはと問うてきた軌跡から筆を進めます。キャラクーAIから見た「知能」、そこから広がる「人工知能」の世界を解説しているのが『人工知能と人工知性—— 環境、身体、知能の関係から解き明かすAI—— 』。

三宅さんは、人工知能にはふたつの視座が必要だといいます。情報科学の視座と生態学的視座です。

つまり、推論、演緯、意思決定、学習など、数理論理学を基調としたプログラミング上で実現可能なものを扱う、情報科学の一分野として探求される人工知能、これが人工知能の一般的な理解だと思いますが、それだけでは人工知能を作ることはできません。少なくともキャラクーAIの具体化はできないと言います。なぜか。

21世紀、ゲームの世界に3D技術が導入されました。この結果ゲームキャラクターのプログラマーは身体性を通した、ゲーム世界で運動する知能、つまり経験する身体を持った人工知能の構築を開始することになったのです。ここでは、食べる、生活する、生殖する、など、身体を以て世界と接触する存在としての知能の解明が必要となってくるというわけです。それが生態学的視座です。環境の中に自分の身体運動を適応させていく過程で必要とされる知能、それを人工知能として実装するには、現象学をはじめとする哲学の素養が必須なのです。

 

■「弱い人工知能」と「強い人工知能」

最近、人工知能に「弱い人工知能」と「強い人工知能」がある、といった言い方がされますね。

「弱い人工知能」とは単一機能を実現するAI、「強い人工知能」とは総合的な機能を具備するAIのことです。

キャラクターAIには、単一の機能を持つ人工知能(弱いAI)とは違う、総合的な知能(強いAI)が必要とされるのです。

ただし、「弱い人工知能」、単一機能を実現するAIも「単一」の単語からイメージされがちな単純なものではありません。奥は深いのです。

今世の中で話題になっている「人工知能」の多くは基本的には「弱いAI」ですが、そこには「機械学習」の研究成果が盛り込まれています。

この「機械学習」を物語り仕立てで解説してくれるのが『イラストで学ぶ 人工知能概論 (KS情報科学専門書)』です。立命館大学情報理工学部の教材・教科書がもとになっています。

仮想の人工知能ロボットを題材に話は展開していきます。「ホイールダック2号」と名付けられたロボットが、自律的に迷路を通り抜け、出口にいるスフィンクスの問いに答えられるようになるまでを辿りながら、どんな知能を与えたらそれが可能になるかを追います。章ごとに問いが出され、その解を得ようとする読者は次第に深い思考へと誘われます。

ここで忘れてならないのは、人工知能は自分で問題を設定することも、新しく問題をつくり出すこともできず、人間から与えられた課題と条件のなかで運動する存在だということ。問題と条件を与えるのは人間なのです。適切な問題設定と条件を整備してやる力を、私たちは学習することが求められています。

学習が重要です。

「人工知能に仕事を奪われる」どころか「人工知能に仕事をさせる」ことが必要な社会が、世界のあらゆる国に先駆けて到来する国、それが日本なのですから。

 

■AI・ロボットと共生する社会

これから日本は高齢化社会の到来に伴う様々な課題に「解」をみつけていかなてはなりません。その時、重要なのがAIやロボットの力を借りることです。AI・ロボットと共生する社会を日本は目指さなくてはいけません。

そしてここにIoTも登場しますよ。

つまり、ロボットの頭の中でローカルに処理できるものは処理させておく、そして、より難しく複合的な問題は、世界からネットから情報を吸い上げ(IoT)クラウド上の人工知能にその処理を任せる。そういう方向に技術開発は向かわざるをえないからです。

この行き着く先が「スマートシティ」です。

今後はロボットに限らず、ドローン、デジタルサイネージ、IoTなど多数のデヴァイスが、情報空間と現実世界を結んでいくことになるでしょう。あらゆるところにセンサーがはりめぐらされ、街全体が人工知能になるのです。

街中に配置されたロボットやドローンたちは必要な情報を周囲から取得し、クラウドで共有したうえで、お互いが協調し、行動してくれなくては困ります。そのためには、適切な問題設定と条件を整備してやる力を、私たちが学習し、身に着けておかなくてはいけません。

主体的に学習していく、「アクティブ・ラーニング」は本当に切実なキーワードですね。これからの時代の私たちにとって。