■開催にあたって(「クリエイティブな人のための哲学塾」)

(講師:三宅陽一郎氏からのメッセージ)

人の知能は、環境、身体、知能からなります。

 

我々の知能は毎日、周囲の環境の中で刺激と情報にさらされます。知能はこのような刺激と情報から、自らを中心とした自分の世界を頭の中で再構成します。知能は単に受け身ではなくて、あらゆる瞬間に自分の世界を環境と共に創造しているのです。

 

またその結果、行動も同様に創造的に生み出されます。行動は生物が一人で作るものではなく、環境と共に創造するものです。それは環境と共に演じるダンスでもあります。生きること、考えること、認知すること、行動することは、すべて世界と協調した創造的な行為なのです。生物は日常を創造的に生きる存在なのです。

 

このように創造性は特殊なものではなく、生物の根源的なプロセスです。しかし、そういった創造性は通常は、生活や生存を構築するために収められています。それらを逸脱して、創造性を発揮することは芸術と呼ばれます。芸術を鑑賞することは、何かの理由で弱っている人の創造性、つまり生きる力を与える役割を持ち、また芸術を作ることは、我々が共通に持つ創造性の源泉に遡り、その力を導くことでもあります。

 

不謹慎とは言え、サバンナの動物たちの争いは時に芸術的でさえあります。追い追われつつ逃げきる動物たちの運動は一瞬一瞬の絶え間ない創造性の発露です。人間の社会は、周囲の環境を変え、見事な都市と移動手段を作り出しましたが、同時に、我々はその揺らぎ続ける世界の中でどのような現実を再構成して生きるべきかを常に問われています。そういった世界では、うまく現実の像を結べないもどかしさと主体的行為の減衰があります。しかし、同時に、これまでになかった新しい行為の創造が可能となって行く時代でもあります。我々は「自分」と「現実」と「デジタル世界」を再構成する時期に来ているのです。哲学とは古い書物の上に思考を限定することだけではなく、変わり続ける世界の中で、確かに、正しく、そしてより広く生きる可能性を見つけ出すことです。

 

本講演では、我々がいかに毎瞬間において創造的な精神活動を行っているか、またその源泉から創造へ至るプロセスを説明して行くことで、生物誰もが本来的に持っている創造性について説明したいと思います。またそこで、我々の鏡面である人工知能たちの創造性とどのように関係して行くかを説明できればと思います。

◆関連URL
「クリエイティブな人のための哲学塾」【セミナー備忘録】 | ちえのたね|詩想舎 http://society-zero.com/chienotane/archives/5336
<人工知能>と<人工知性>— 環境、身体、知能の関係から解き明かすAI— http://society-zero.com/icardbook/006/index.html

アイカードブック(iCardbook)| 詩想舎 http://society-zero.com/demo/index.html

人工知能と人工知性

人工知能と人工知性