電子雑誌:国内での成功事例と海外へ向けた取り組み(後篇)【セミナー備忘録】

(個人用のメモです。議事録ではありません。記事中の図画はプレゼン公開資料を使用しています))

■第二部:『電子雑誌・海外展開 翻訳配信トライアル 〜人工知能を用いたデバイス最適化について〜』
講師:ハースト婦人画報社
デジタルプロダクト部マネージャー 兼 製作部デジタルマガジン課 課長 松延 秀夫 様
・プレゼン資料:ハースト婦人画報社 http://www.slideshare.net/JEPAslide/ss-67449994

市場縮小時代の経営の要諦は次の3つ。

・他社シェア奪取
・業務の構造改革による収益性の向上
・海外の成長に手を伸ばす

本日のハースト婦人画報社、松延氏の講演は、三番目海外市場開拓のパイロットプラントとしてスタートした、台湾プロジェクトの説明。そして、それには二番目の「業務の構造改革」を業界を挙げて行う必要がある、つまり規格化・標準化が肝になる、ゆえにこの台湾プロジェクトへの参画を募る、のがその眼目であった(もちろん他にもいろいろ貴重な情報開示があったが、全容はJEPAサイトの映像をご覧ください。 https://youtu.be/zgK1jlHtFng  )。

また構造改革の明細の中には、標準化以外に、翻訳やレイアウトの最適化のために人工知能を使うといった「旬」のテーマも含まれ、エキサイティングな内容だった。

1.海外の成長へ手を伸ばす

それでなくとも減少基調が定着している雑誌市場で、この先人口減少が見えているのであれば、なんらかの対策(海外の成長に手を伸ばす)が必要。業績好調なトヨタですら、実は国内で儲けているというより、いまや海外が生産・販売の中心なのだから。

ただ「海外の成長」先、攻め込み先は決して先進国ではない。我々日本企業はもっとアジアの成長市場に目を向けていいのではないか。

 

2.リサーチ活動の結果

シンガポール

シンガポールの雑誌社にヒヤリングをしてみたところ、もう彼らは国外への進出を始めていた。たとえばSPNマガジン社は100タイトルの雑誌をデジタル化し、すでに150万人もの電子雑誌アクティブユーザーを獲得するまでになっていた。分母となる総人口を考えるとこれは大変大きな数字。(総人口2015年:シンガポール 5.5百万人/日本127百万人)

アメリカ

またデジタル化先進国の米国雑誌社にもビジネスモデルの実際例をヒヤリングしてみた。

それというのも米国では雑誌ビジネスを、紙のメディア(雑誌)を作るためのビジネスではなく、コンテンツやサービスを利用者に届ける「ブランド」ビジネスとして再定義する運動が始まっていたからだ。
(●電子雑誌元年がやってきた(後編)--「紙雑誌は死んだ」から「だから何?」の時代へ http://society-zero.com/chienotane/archives/4561/#4

・チャネルは「紙」だけではないという認識(紙にも存在理由が依然ある)が共有され、
・「デジタルファースト」さえも超えて「ブランドファースト」へ向かっている

業界団体も、「マガジン・メディア360°」という指標を開発、このトレンドを後押ししている。すなわち米国雑誌協会(MPA)は2014年から、紙雑誌と電子版の読者数に加え、ウェブサイト、モバイルサイト、そして動画のUV(ユニークビジター)を合わせた指標を公開(これらとは別に、ソーシャルメディアのファン数も公開している)。「360°」、つまり全方位的に、ブランドとしての雑誌の「媒体力」を測ろう、としている(サイト: Magazine Media 360° is... | MPA http://www.magazine.org/magazine-media-360 )。

NEXT ISSUE社:自前配信サイトから「読み放題」を展開(日本ではキャリアによる「読み放題」)による、マーケティングデータを得ることのメリットが強調された。
Mereditch社:1億人規模の獲得データを基に、雑誌事業に加え、商品開発、コンサルテーション、メディアプランナーなどの事業へ進出していた。
Idealiance社Time社からは、メタデータの重要性、また広告モデルを収益の柱にするにはHTMLベースの表現力ノウハウを身に着ける必要性を説かれた。

そしてここ数年の試行錯誤の、米国での「雑誌」に対する総括はこのようなものであった。

「雑誌が、エンタテインメント、ニュース、インスピレーションの源であり、 さらに信頼性を増し、人々をつなげることで、広告主の売り上げを 押し上げることにも貢献していることを確認することができる(メレディス会長兼最高経営責任者 スティーブン・レイシー氏)

「印刷、テレビ、オンラインの組み合わせの中で、 印刷が入っていないと効果が減る。 雑誌は死にゆく存在だ、というのは悲観論に過ぎない(米調査会社ミルワード・ブラウン スコット・マクドナルド博士)

3.日米での市場の違いを踏まえた我々の売上拡大策は?

日本から海外へ情報発信をする、という視点から追い風となるのが、政府の海外からの日本国内旅行者を増やす、インバウンド政策。ここに日本雑誌社が発効する雑誌への需要があるのではないか。

ここでも、ボリュームゾーンは先進国ではなくアジア。とりわけ、韓国、中国、台湾、香港(この四か国で訪日外客数全体の73%)。
訪日前、さらには日本滞在中も、雑誌を楽しみ、活用してもらうチャンスがあるかもしれない。

そうなると課題は多言語化対応、ということになる。

4.台湾から

そこでまず台湾から始めてみた。

台湾で最大級の電子雑誌サービス「Kono」と組み配信トライアルを実施。

次にこれを拡大させた実証実験を計画

・検証期間は2016年/11月~3か月間を予定(検証結果を踏まえ継続展開も可)
・オールジャンルで最大20誌を想定
・日本語のデータをKonoが繁体字に翻訳・配信

・検証項目: UU/PV/性別/年齢/デバイス/閲覧時間/読まれる雑誌のジャンル/日本語版と繁体字版の需要、など
・トライアル期間の検証結果は参加出版社間で共有
・検証実施体制 主催:出版社コンソーシアム(本件加盟社による自主的な運営形態) 企画・協力:㈱電通/㈱富士山マガジンサービス/kono inc

技術的な特徴として、「人工知能を使った、翻訳と低価格でのデバイス最適化」がある。

・事例

 

◎中間での総括

・海外展開

・国内展開

「コミュニケーションのあり方の変化が、「出版」を新しいやり方(目的、効果、技術、ワークフロー、媒体)で再定義するよう求めている、そうしたニーズにどう応えるか、それが「電子出版」の意味なのではないか」、この林智彦氏の問いかけに対し、雑誌業界は動き始めている、と感じたのは私だけでないだろう。

 


◇関連URL
●ブランドファーストと「マガジン・メディア360°」 http://society-zero.com/chienotane/archives/4561

●公共圏の話題と外国人旅行者の話題 http://society-zero.com/chienotane/archives/3468