オープンアクセスのパラドックス 【セミナー備忘録】(3)

(3)オープンアクセス運動

オープンアクセスとは

オープンアクセス(OA )構想は、2002年2月14日にブダペスト・オープンアクセス・イニシアティヴ(BOAI)において「ブダペスト宣言」として発表された。

査読済み論文に対する障壁なきアクセス」がその本質。

同宣言は、オープンアクセス(OA)の定義を下記のように述べ、それを実現する手段として

・研究者によるセルフアーカイビング
・OAジャーナル

の2つの掲げ、推奨した。

(ピアレビューされた研究文献)への「オープンアクセス」とは、それらの文献が、公衆に開かれたインターネット上において無料で利用可能であり、閲覧、ダウンロード、コピー、配布、印刷、検索、論文フルテキストへのリンク、インデクシングのためのクローリング、ソフトウエアへデータとして取り込み、その他合法的目的のための利用が、インターネット自体へのアクセスと不可分の障壁以外の、財政的、法的また技術的障壁なしに、誰にでも許可されることを意味する。複製と配布に対する唯一の制約、すなわち著作権が持つ唯一の役割は、著者に対して、その著作の同一性保持に対するコントロールと、寄与の事実への承認と引用とが正当になされる権利とを与えることであるべきである。

この2つ手段には、

・従来の学術雑誌の体制をそのままに実質的に論文を無料でアクセスできるようにしようとする(=研究者によるセルフアーカイビング
・これまでの学術雑誌とは異なるビジネスモデルに基づく学術雑誌を中心としてオープンアクセスを実現していこうとする(=OAジャーナル

この方向性の違いがある。つまり後者には、商業出版社が全権を握るエコシステムからの脱却が、志向として読み取れる。

学会ではふたつの言い方でこれを区別することが一般化している。すなわち、セルフアーカイビングをグリーン(Green road)と、OAジャーナルをゴールド(Gold road と、呼びならわしている。

このうち、OAジャーナルの範疇でまず出てきたのは論文の執筆者が対価、すなわち掲載料(Article Processing Charge:APC)を払って論文掲載を申し出る方法。大学図書館が支払うのではない、新しい知のエコシステムを目指した。次に出てきたのが、学術振興を国の競争力の基盤になると考えた政府が、ファンドを出しもうひとつの財源とする動き(政府以外にも財団などのケースも含まれる)。いずれも無償での論文アクセスが可能になる、「査読済み論文に対する障壁なきアクセス」を具体化できる画期的な発想だった。

近年中国を筆頭とするアジアの論文数が増大している。図書館支払い能力に上限があるの中での伸長ゆえ、増加分の論文は主として掲載料(Article Processing Charge:APC)を支払うことで発行できるオープンアクセスモデルで出版されたものと推定されている。
・購読料高騰の中、オープンアクセス誌が全体の1~2割程度浸透

無償で読める電子ジャーナルの登場(知のエコシステムの、資金、ファンド面の担い手の変更)は商業出版社の経営基盤を揺るがしかねない大事態。紙のコンテナを不要にした(デジタル化)ことがこの危機を招いた。

しかし紙であろうが、電子であろうがやらなければならない作業、編集、校正、査読。この工程を誰が担当し、そのコストをどういうメカニズムで回収するか、という難問は「オープンアクセス」でも変わらない。