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トマ・ピケティ|ピケティ用語集

フランス人経済学者。「格差の拡大は資本主義に内在するメカニズムだ」というメッセージが注目を浴び、欧米で、そして日本でも飛ぶように売れている経済書『Capital in Twenty-First Century(邦題:21世紀の資本)』の著者。

フランスでは著名な知識人の一人。左派系の日刊紙リベラシオンでコラムを執筆し、2007年のフランス大統領選では社会党のロワイヤル候補に最高経済顧問として仕えた。経済学を社会学に架橋する点で、米国中心の現在の世界の経済学の潮流に異を唱え、著書が脚光を浴びる原点となっている。

1971年5月7日、パリ郊外のクリシー生まれ。ピケティ氏の両親は裕福な出であったにもかかわらず、1968年のパリ五月革命に関わり、労働運動の闘士として活動、労働階級の家庭を作り、ピケティ氏はその家庭環境で育った。

フランスで高等教育機関に入学するための資格「バカロレア」を取得後、18歳でパリの高等師範学校に入学。ここでは数学と経済学を学んだ。22歳で博士号を取得し、フランス経済学会から年間最優秀論文賞を受賞した。論文のテーマは富の再配分だった。

博士号を得た後、1993年から1995年まで、ピケティはアメリカ合衆国のマサチューセッツ工科大学で、助教授として教鞭をとった。1995年、フランス国立科学研究センター (CNRS) に移って研究に従事することとなり、さらに2000年には、社会科学高等研究院 (EHESS)の研究代表者となった。現在は、自身が創設にかかわったパリ経済学校と社会科学高等研究院の教授職に就いている。

つまり、労働階級の出身で、公立の学校を経て苦労してエリート校に進み、一流の官僚(国営のパリ経済学校の共同創設者で学長も務めた)になった、米国でなら「アメリカンドリーム」的存在。この人生モデルはフランスでも戦後の復活を支えたモデルであったがしかし、フランス社会ですら今では破綻したとされている。

ヴォートランのお説教が再現されているのが現実の社会ではないか、とピケティ氏自身が感じたことが、『21世紀の資本』の背景にあったかもしれない。

「ピケティ氏はエリートの道を登りながら、周りの人々の両親や祖父母(多くの場合、祖父母の4代前の先祖も)が自分の家族よりもはるかに恵まれていたことに気づかずにはいられなかっただろう。だからこそ彼は、自身の左翼的な文化背景から学んだことと経済学のモデルや実証的な研究結果の中に発見したものを結びつける道に進んだ(●「21世紀の資本論」ピケティ氏は急進的なのか)」。


私がアメリカンドリームを22歳で体験したということも付け加えておこうか。博士課程を終えた直後に、ボストン近郊の大学に雇われたのだ。(略)ただかなりすぐに、自分がフランスとヨーロッパに戻りたいことにも気づくことになり、25歳で帰国した。(略)この選択を行った重要な理由は、本書にも直接関係したものだ。米国の経済学者たちによる研究に、完全には納得できなかった。

(『21世紀の資本』 p34)

 

経済学は他の社会科学と自分を切り離そうなどとは決して思うべきではなかったし、経済学が進歩するには他の社会科学と連携するしかないのだ。(略)富の配分や社会階級の構造の歴史的動学についての理解を深めたいならば、当然ながら現実的なアプローチを採って、経済学者だけでなく、歴史学者、社会学者、政治学者の手法をも活用すべきだ。根本的な問題から出発してそれに答えようとすべきだ。(略)私からみれば、本書は経済学の本であるのと同じくらい歴史研究でもある。

(『21世紀の資本』 p35~36)


◆関連書籍


◎ピケティ用語集・一覧 http://society-zero.com/chienotane/archives/3385
◎データ集 トマ・ピケティ『21 世紀の資本』 http://society-zero.com/chienotane/archives/3427


◇関連クリップ
●資本主義の効果に疑問を投げかけたピケティ本〜その人気の実態は? http://blogos.com/article/102730/
社会問題の解決を通じて経済問題を解こうとする大陸、とりわけフランスと、経済で社会問題を解決しようとする米国、という違いが、『21世紀の資本』に対する受け止め方の違いとなって表れた。

●金持ちはなぜずっと金持ちなのか?–話題の経済学者トマ・ピケティ氏が、富の格差が起きるホントの理由を解説 | 詩想舎の情報note / 所収)

●齋藤精一郎:『21世紀の資本論』が論争を呼ぶ理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140520-00000000-fukkou-bus_all&pos=3
福祉国家概念が構想され、実現した20世紀初頭から中葉は、平等と自由が現実的な「希望」と認識できた幸福な時代だった。それ以前の時代の欧州は、文化爛熟のベルエポックを謳歌していたが経済社会的には、富と所得の不平等がピークを迎えてもいた。そしていま、「不平等」度合や「世襲」の密かな復活などは、「第二のベルエポック」を想起させる。資本収益性と経済成長性のふたつの数字の関係(ベルエポック時は後者が勝っている)が、時代転換のエンジンとなっている。

●「21世紀の資本論」ピケティ氏は急進的なのか
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304357604579585450142850362
「ピケティ氏はエリートの道を登りながら、周りの人々の両親や祖父母(多くの場合、祖父母の4代前の先祖も)が自分の家族よりもはるかに恵まれていたことに気づかずにはいられなかった」。その原点から産まれたこの著述は、しかし米国で売れ、フランスではそれほどでもない。資本主義が不平等の拡大を作り出し、社会秩序を根元からむしばむ、という考え方は米国内で議論の的になったが、フランスでは全く逆で、福音書なのである」。フランスで彼は保守派と目されているのに、米国では左寄りと認識されている。

(以上 ●特別対談 加藤陽子(東京大学教授)×高木徹(NHKディレクター)—「国際メディアと日本人」 | 詩想舎の情報note  所収)