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クズネッツ|ピケティ用語集

アメリカの経済学者(1901~1985年)。ロシア生まれで、アメリカに移住、帰化し、1926年にコロンビア大学で博士号を取得。その後ペンシルベニア大学、ジョンズ・ホプキンズ大学、ハーバード大学教授を歴任。1971 年ハーバード在籍中に 、ノーベル経済学賞を受賞。

業績は大きく二つ。アメリカ国民所得計算の収集と分析。そして開発経済学という分野を確立した点。

このふたつの仕事の成果として生まれたのが「逆U字型曲線」。

この「逆U字型曲線」に関連して日本のマスコミの論調はどちらかというと、グズネッツに対しピケティが反旗を翻したかのような書き方、ないしニュアンスがあるがこれは違う。むしろ彼はクズネッツの正当なる継承者だったがゆえに、この話題の書籍をものにできたのだ、と言える。

『21世紀の資本』でピケティはこう言っている。

実は、所得分配計算の時系列データが初めて整備されたのは、1953年にクズネッツが記念碑的な『所得と貯蓄における高所得グループの比率』を刊行した時なのだ。クズネッツの時系列データは、ひとつの国(米国)だけについてのものだし、35年間(1913年~1948年)しか扱っていない。それでもこれは巨大な貢献だし、19世紀の著者たちが全く使えなかった二つの情報源を基にしている。米国連邦所得税申告(これは1913年に所得税が導入されるまで存在しなかった)と、クズネッツ自身が数年前に行った米国国民所得推計だ。これは社会の格差をここまで野心的な規模で測ろうとという初の試みだった。

(『21世紀の資本論』 p13)

 ピケティがやったことは、クズネッツに倣いまず時系列を前後に横に伸ばし(約200年)、さらに縦に同時代の国の数を増やしたことだ。

そうやって研究手法を踏襲し、横と縦に拡充した結果でてきた結論はしかし、クズネッツの仮説(「逆U字型曲線」)を否定するものとなった。

実は、クズネッツ自身、この仮説が5%の史実と、95%の推察に基づいたもので、その幾分かは希望的観測に基づくものであるとし、この仮説の検証を次世代の研究者の手に委ねていた。21世紀になり、ついにその後継者たる研究者が現れたことになる。

当のクズネッツ自身が言うように「これは5%ほどの実証的な情報と95%の憶測で、しかもその一部は物欲しげな願望で歪んでいるかもしれない」。

(『21世紀の資本』 註p19)


格差の問題が再び中心的なものになるためには、まず過去と現在のトレンドを理解するために、できるかぎり広範な歴史的データを集めることから始めなければならない。そこに働いているメカニズムを同定し、将来についてもっとはっきりしたアイデアを得るためには、辛抱強く事実やパターンを明らかにして、各国を比較するしかないからだ。

(『21世紀の資本』 p18)

客観的に見て、大量の歴史的データを扱う作業は、クズネッツの時代には現在よりずっとむずかしかった。

(『21世紀の資本』 p22)

誤解なきよう言っておくと、初の米国国民経済計算データを確立し、格差指標の初の時系列データを集めたクズネッツの業績は、きわめて重要なものだし、著書を読むとかれが真の科学者的倫理を持っていたことは明らかだ。

(『21世紀の資本』 p16)


◆関連図書



◎ピケティ用語集・一覧 http://society-zero.com/chienotane/archives/3385
◎データ集 トマ・ピケティ『21 世紀の資本』 http://society-zero.com/chienotane/archives/3427


 

◇関連クリップ
ピケティ勉強会(4) 実は、ピケティはこうも言っている。 | 詩想舎|ちえのたね http://society-zero.com/chienotane/archives/24